第10話 寝技 後編
「ちょっと待ってくれないか」
娘さんが、カウンター奥から、アコースティックギターを持ってきた。俺が持ち込んだモーリス。
気に入った場所には、ギターを勝手に持ち込んでいる。
しかし、間が悪い。
「歌うたいのバラッドを唄ってよ」と娘さん。
エロマドンナが、二回目の口を開く。
「あたしが、話してんだけど」
「ごめんなさ~い」
マツダが、オカマ風に間へ入ると、入り口から、ジュンとリョウトが入ってくる。
リョウトは、唇と舌に開けたピアスを触りながら、ニコニコと話しかけてきた。
「俺、けん玉とか買ってきたんすよ。」
後ろでは、ライダースにリーゼントのウチヤマが、器用にヌンチャクを振り回し、サトウやジュンがパチパチと拍手している。
「遠くから、来てもらって悪いんだけど、あまり話せないみたいだ。あんたもけん玉やるかい?」
「…今日は帰ります。」
「今度は、来る前に、ダイナーに連絡入れてくれないかな。話せるようにしておくよ。」
「タクヤさん」エロマドンナが、胸元からライターを取り出す。
「今度来てよ、サービスするから」
エロマドンナの色気にあてられたら、たまらない奴は多いだろう。
サングラスの奥で、マツダは、どこを見ているんだろう。
「マツダ、顔から血がでているぞ」
マツダは、ジェットヘルメットと、西部警察の大門みたいなサングラスをかけたまま、黙ってトイレに向かった。
「それじゃあ、また来ます。」
「覚えておくから」
二人は、香水の匂いを漂わせながら、ダイナーを出て行った。
出口を出る時に、二人で俺にウインクをしたのは、気のせいだろうか。

