NHKスペシャル「下山事件」の第2部も第1部と同じトーンであった。

 第1部・第2部をつうじて描かれているものは、下山国鉄総裁の死亡はアメリカ占領軍GHQによる謀殺である、ということを立証する直前に迫ったときにその占領軍によって捜査の終了を命令された検事の無念と悔しさであった。この番組につらぬかれているイデオロギーは、戦争に敗れ占領下におかれたことを体験した日本人は、検察という国家的な機関はもちながらも国家権力をもたず外国軍によって蹂躙されたという屈辱をバネにして、日本国家権力のアメリカからの自立を成し遂げるべきである、とする日本のナショナリズムである。

 この番組の制作者は、田中角栄の逮捕は検察がアメリカからの圧力をうけたことにもとづくものであった、という話をもワンカットとして盛りこんだ。この田中角栄は、日本がアメリカに依存しないで資源を調達する道をつくりだすために動いた資源自立派の国家権力者であった。

 この番組は、いまの日本の国家権力ははたしてアメリカから自立しえているのであろうか、と問いかけて結んだ。

 このイデオロギーは、戦前の天皇制のようなものを再興したいという右翼の民族主義とは異なったものである。これは、アメリカ国家が世界の覇権をめぐる抗争において中国国家やインド国家に浸食され没落しつつある、という世界情勢のもとで、日本の国家と経済の衰退をくいとめるために、日米軍事同盟を維持しながらも、日本の国家権力の発動においてアメリカ国家からの制約を減らしていきたい、という日本独占ブルジョアジーの意志をあらわすイデオロギーである、ということができる。

 少し前に民放のテレビで、日本の敗戦と占領を描いた映画がつくられた、という報道をやっていたときに、この映画を見た脳科学者の中野信子が「戦争に負けたらこんなことになるんだ。こういうことを言ったら何と言われるかわからないけれども、戦争に負けたらこんなことになるんだ」、と盛んに言っていた。私は、このとき、中野信子は右翼とは思えない、なぜ、こういうことを言うんだろう、と思っていた。いま、わかった。彼女は、日本の人びとが占領軍によって虫けらのように蹂躙されるのを、映像で見、人びとの悲痛な叫びで聞いて、ものすごい屈辱を感じたのだ、といえる。

 日本を占領したアメリカ軍を「解放軍」とよんだ日本共産党がそのすぐ後に、民族解放民主主義革命路線に転じ、武力闘争を展開した、その指導者・徳田球一の内面に渦巻いていたのも、この屈辱だったのではないだろうか。——私は、反米民族主義におちいる人間の情緒と情感と感情を見る思いがした。

 このように考えてくると、「革マル派」中央官僚がわがものとしているイデオロギーは、この日本のナショナリズムだ、ということがわかる。日本をアメリカの「属国」と規定し、アメリカが日本を締めあげている安保の鎖を断ち切り、日本帝国主義が自立することを願う、という彼らの日本民族主義を規定しているところのものは、日本の敗戦とアメリカによる占領の体験を追体験的におのれのものとし、日本人がみずからの国家権力をもちえなかった、そして今も真にもちえているとは言えない屈辱を晴らす、という心情と情感を自己のバネとするものだ、ということである。

 彼ら中央官僚が、日本人の血が流れているおのれであることを自己確認するという田辺元的なものを心の支えにしているのも、アメリカに侵されない日本的なもの=世界に冠たる哲学を守り受け継ぐ、という・わきおこる衝動にかられているからだ、と言えるであろう。

 ナショナリズムの根は深い、と私は感じる。

 

 

 

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