『反スタ 2』において黒田は、『組織論序説』の段階では「「前衛組織」は、いわば扇の要としての組織的地位があたえられ二重に規定されている」というように捉えかえしたうえで、このような理論化がなされている根拠の第一番目として次のようにのべている。

 「(イ)民同的あるいは代々木的に歪曲されている今日の労働運動の内部において、反幹部闘争などをテコとして、それを左翼的に展開し、これを通じて、社共両党の内部に革命的ケルンをつくりだす、というベクトル(労働運動→ケルン)からの追求がその根底にあること。いいかえれば、質的にも量的にも強化された「内部」の革命的ケルンが、「外部」の指導部とともに、労働運動へ組織的にとりくむこと(ケルン→労働運動)そのものを組織論的に追求することが欠如しているということである。」(228頁)。

 これが、(イ)の部分の全文である。

 私は、この部分を最近読みかえして、これは不思議な展開だ、と感じる。『組織論序説』の段階での実践にかんして「反幹部闘争などをテコとして、それを左翼的に展開し」とされているのであるが、これをおこなった主体が、いいかえれば、この句の主語が書かれていない。これをおこなったのは、われわれではないだろうか。だから、主語は「われわれ」ではないだろうか。

 倉川篤である松崎明が、尾久機関区で二人の労働者をオルグして三人で革命的ケルンを創造していたとしよう。こういうことを念頭において当時を考えると、このケルンが反幹部闘争などをテコとして動力車労組尾久支部の運動を左翼的に展開したのではないだろうか。これは、このケルンが組織として組織的に労働運動に組織的にとりくんだ、ということではないだろうか。

 たとえ、倉川篤である松崎明が、尾久機関区で一人から出発した、という時点であったのだとしても、彼の実践は、彼がその一員であったRMG(革命的マルクス主義者グループ)が組織として動労尾久支部の運動に組織的にとりくんだ、ということではないだろうか。したがって、この実践は、彼がわれわれRMGの組織戦術を労働運動の場面に貫徹した、ということではないだろうか。

 倉川篤である松崎明のこの実践は、〈労働運動→ケルン〉というベクトルからの追求であった、とは決して言えないのである。

 黒田は、『組織論序説』で次のように書いていた。

 「各工場・各職場・各地域などでの種々の闘争の過程で既成指導部に反撥し、あるいは疑問をいだきはじめた「バネのある」戦闘的労働者たちは、さしあたりまず〝学習会組織〟に結集されなければならない。……このような〝学習会組織〟を通じての戦闘的労働者の革命的プロレタリア化のための闘い——これが、労働者組織形成の最も端初的な形態であり、その第一段階をなす。」(295頁——原文では、下線は傍点、太字はゴチックである)

 この理論展開は、明らかに〈労働運動→ケルン〉というベクトルからの理論的追求である、といえる。これは、松崎明の実践をどのように理論化するのか、という問題である。

 もしも、倉川篤である松崎明の実践がここに書かれていることからはじめられていたのだとするならば、彼の実践自身が〈労働運動→ケルン〉のベクトルからの追求であった、といいうる。だが、私にはそうは思えないのである。まずもって、倉川篤は松崎明として、既成指導部に反撥し疑問をいだく〈バネのある〉戦闘的労働者をつくりだすという目的意識をもって、組合的諸課題の実現をめぐって動労の右派の幹部に抗して尾久支部の運動を左翼的に展開するための諸活動をくりひろげたのだ、と私は思うのである。いまから考えるならば、黒田はこのことをうまく理論化しえていなかったのだ、と私は思うのである。

 私は、こういうことの考察が問題となる、と思うのであるが、『反スタ 2』の段階で、黒田はこれとは別のことを言っているのである。

 この段階で、黒田は、過去の追求にたいして、「質的にも量的にも強化された「内部」の革命的ケルンが、「外部」の指導部とともに、労働運動へ組織的にとりくむこと(ケルン→労働運動)そのものを組織論的に追求すること」を対置しているのである。こう考えると、黒田の力点は、「質的にも量的にも強化された」「革命的ケルンが」ということにある、ということがわかる(下線は引用者)。〈ケルン→労働運動〉というベクトルというかぎりでは、黒田の理論化にはうまくいっていないところがあるとしても、松崎はそういうベクトルにおいて実践していたのである。そうでなければ、彼は、1960年代の前半だけで動労内にあれだけのわれわれの組織を創造しうることはありえなかった、と私は考えるのである。

 このように考えるならば、〈ケルン→労働運動〉というベクトルということでもって、黒田は、革命的ケルンが質的にも量的にも強化されたのだから、「内部」の革命的ケルンは、——これまでのように労働運動を「左翼的に展開」することに満足するのではなく、——「外部」の指導部とともに、「外部」の指導部がうちだした独自の戦術を物質化し、労働運動をもっと独自的なかたちで展開せよ、ということを松崎明に迫っているのだ、というように、冒頭に引用した文章は、私には読みとれるのである。

 もしも、このベクトルということに、いま見たような意味をこめるのでないならば、黒田は、自分の理論展開上の一面性を反省し提起するとなるのであって、松崎明にたいして、あれほどまでに執拗に「ケルン主義」と批判しつづけることはなかった、と私は思うのである。

 松崎明は、黒田のこの批判をうけいれるのを拒否し、自分自身の実践の仕方をつらぬいたのであった。

 この黒田には、「外部」の指導部がうちだした戦術を「内部」の革命的ケルンは物質化するのだ、という考え方が、基本的なものとしてある、と私には感じられるのである。

 『組織論序説』で次のように展開されている。

 「「反スターリニズム・反社会民主主義」のさまざまの闘いを通じて労働戦線の内部に確固としてうちたてられる革命的中核、革命的プロレタリアートの前衛組織は、一方では、堕落した既成左翼諸政党や労働運動の公認指導部と鋭角的に対立した真の革命的前衛党、あるいはその創成のためにたたかっているその母胎としての革命的マルクス主義者の政治集団との関係においては、その実体的基礎をなし、革命的指導部がうちだす闘争戦術を物質化し既成公認指導部をのりこえつつ闘いを推進してゆくための下部組織としての政治的機能をはたす。……」(280頁)

 これは「扇の要」をなす「前衛組織」の一方の側面にかんする規定である。これの後に、他方の側面をなす「革命的分派組織としての役割」が論じられる。

 ここでの問題は、前衛組織が、革命的指導部がうちだす闘争戦術を物質化するものとして規定されていることである。この前衛組織が、これと同時に、みずからの実践の指針たる闘争=組織戦術を解明し、これを物質化するのだ、ということは考えられていないのである。

 すなわち、山本勝彦である黒田寛一が、革共同尾久細胞あるいは全線委員会の会議に出席して(黒田の自宅でこれらの会議をおこなって)、倉川篤である松崎明たちと論議し、国鉄戦線におけるわが前衛党組織とその諸成員の実践の指針を、したがってその中身においては同時に、わが前衛党組織成員は動労組合員あるいは国労組合員として、どのような方針をうちだし、どのような諸活動をくりひろげるべきなのか、ということをねりあげ解明し決定する、ということは埒外におかれているのである。あくまでも、闘争戦術は「革命的指導部」が解明しうちだすものとされているのである。理念的には、この「革命的指導部」には労働者同志も加わるものとされているとしても、黒田が、職業革命家とすべき学生出身のメンバーたちを相手に論議するのと、労働者メンバーたちと論議するのとでは、論議の仕方と進め方が大きく違ってくるという問題をどのようにして打開するのかということは考えられておらず、実際には、黒田は、第三次分裂の前には、武井健人や野島三郎らを常任メンバーに育てたうえで労働者組織の指導は彼らにまかせたのであり、革マル派結成以降には、前者のメンバーたちだけで実質上の最高指導部をなす書記局を、さらに政治組織局をつくったのである。

 そうすると、どうしても、1965年の反合理化闘争のスローガンのように、黒田は、松崎明らの国鉄委員会のメンバーのいない・自分と本庄武らの常任メンバーだけの場で、「一人乗務反対・ロングラン反対」というスローガンを解明し決定し、本庄武に国鉄委員会につたえさせる、ということになってしまうのである。

 この意味では、黒田は、前衛組織あるいは前衛党組織を創造し、これを前衛党の構成部分とするというかたちで、レーニンの前衛党論を克服しているのだとしても、この前衛党の指導部が闘争戦術を解明してうちだし、これを下部組織である前衛組織あるいは前衛党組織が物質化する、と考えているのは、レーニン・スタイルだ、と私は考えるのである。

 

 

 

 

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