レーニンは『なにをなすべきか?』で次のように書いた。

 「階級的・政治的意識は、外部からしか、つまり経済闘争の外部から、労働者と雇い主との関係の圏外からしか、労働者にもたらすことはできない。この知識を汲みとってくることのできる唯一の分野は、すべての階級および層と国家および政府との関係の分野、すべての階級の相互関係の分野である。」(『なにをなすべきか』国民文庫、村田陽一訳、121頁。——本書からの引用はページ数のみを記す。下線は、原文の傍点、以下同じ)

 これは、レーニンの外部注入論と呼ばれるものである。すなわち、職業革命家集団としての前衛党が労働者にその外部から階級的意識性を付与する、というように特徴づけられているものである。

 レーニンの主張をこのように特徴づけることはできるとしても、彼の言う「階級的・政治的意識」「意識性」とはどのような中身であるのか、ということを検討することが必要である、と私は現在的に考える。

 これまで、レーニンのこの理論を検討してきた人たちは、彼の言う「階級的・政治的意識」を「プロレタリア的な階級意識」というように理解して論じてきたのではないだろうか。私は、そうではないと論じた見解を知らないし、私も、これまでずっとそう思ってきた。しかし、わが仲間たちが職場でどのようにたたかうのか、ということを論議しているうちに、そしてまた、イタリアのレーニン主義者であるロッタ・コムニスタによるレーニンのうけつぎ方について考えているうちに、1~2か月前から、はたしてそうなのか、という問題意識を、私はもつようになったのである。

 レーニンは、「われわれはいま、労働者は社会民主主義的意識をもっているはずもなかった、と言った。この意識は外部からもちこむほかなかったのである。」(50頁)と書いたうえで、次のように明らかにしたのである。これは微妙である。

 「近代の科学的社会主義の創始者であるマルクスとエンゲルス自身、その社会的地位からすれば、ブルジョア・インテリゲンツィアに属していた。ロシアでもそれとまったく同様に、社会民主主義の理論的学説は、労働運動の自然発生的成長とはまったく独立に生まれてきた。それは、革命的社会主義的インテリゲンツィアのあいだでの思想の発展の自然の、不可避的な結果として生まれてきたのである。」(同前)

 この引用文から、レーニンは、労働者に外部からもちこむべき「意識性」の中身としては、ロシアに移植されたマルクス主義の理論を考えていた、ということがわかる。すなわち、プレハーノフが先頭となってマルクス主義をロシアに移植して創造したところの理論である。

 レーニンは「大衆の自然発生性と社会民主主義者の意識性」(47頁)とを対比し、「経済闘争」の展開を主張する「経済主義」者を「自然発生性への拝跪」(54頁)と批判して、「専制の打倒の任務を提起し」(51頁)、この任務を実現する「政治闘争」の推進を対置したのであった。

 レーニンの言う「意識性」とは、「階級的・政治的意識」とも表現されているように、この「政治闘争」を推進する意識をさすのであり、彼の主張する「政治闘争」とは、ツァー専制権力を打倒する反権力闘争を意味するのである。

 では、「専制の打倒の任務」の中身は何か。

 レーニンは言う。

 「「共産主義者はあらゆる革命運動を支持する」〔『共産党宣言』〕のであって、したがってわれわれには、全人民にむかって一般民主主義的任務を説き、これを強調する義務がある——しかも自分の社会主義的信念をただの一瞬もつつみかくすことなく——ことを、実際に忘れる者は、社会民主主義者ではないからである。」(126頁)と。

 ここからわかることは、レーニンが提起する「専制の打倒の任務」には、「ブルジョア民主主義革命からプロレタリア革命へ」というレーニン型の二段階戦略がつらぬかれており、「専制の打倒」はその第一段階目として位置づけられ「一般民主主義的任務」を実現するものとされている、ということである。彼がみずからの二段階戦略を理論的に定式化して展開するのは、『なにをなすべきか?』よりも少し後で執筆した『二つの戦術』においてなのであるが、彼は革命運動をはじめた最初から、「イスクラ」の同志であったプレハーノフに学びつつ、自分自身のロシア革命戦略を構想していた、ということができる。その戦略の二段階目は、「自分の社会主義的信念をただの一瞬もつつみかくすことなく」というかたちで明らかにされているのである。この「一瞬も」という表現は、『二つの戦術』では、「社会主義的任務の遂行を一瞬たりとも忘れてはならない」というかたちで使われているものなのである。

 ここから言いうることは、レーニンは、自然発生性への拝跪を打破するために、職業革命家集団としての前衛党が、「専制の打倒」のために「一般民主主義的任務」を遂行するという戦術を提起して、労働者と農民からなる全人民にこの「階級的・政治的意識」を体得させ、彼らをひっぱる、というように構想したのであって、経済的要求や政治的要求を掲げて決起した労働者や農民にプロレタリア的な階級意識そのものをもつことをうながし、彼らを思想的に変革し階級として組織する、というように考えたのではない、ということである。

 私は、レーニンといえども、即自的に闘いに起ちあがった労働者・農民の一人ひとりと、彼らをプロレタリア革命の主体へと変革するための思想闘争をおこなうのは大変だったのだ、という感を強くもつのである。

 プロレタリアの自覚の論理を理論的に明らかにした黒田寛一は、現存在する労働者にかんしては、わが組織が、組織戦術にふまえた闘争戦術を提起して労働運動を組織し、このような闘争=組織戦術を体得させることによって労働者をわが組織の担い手へと変革する、と考えたのであって、現に自分の目の前にいる・職場でたたかっている労働者と、彼を自分がプロレタリア革命の主体へと思想的に変革するために論議するのは大変だったのだ、という思いに、私は駆られるのである。

 ようするに、レーニンといえども日和ったのだから、そのことを自覚してがんばろう、ということである。

 

 

 

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