黒田寛一は、『実践と場所 第一巻』において、「価値意識性」というカテゴリーをつくりだしている。

 「このように社会的人間存在の「人―間」的価値意識性が対象的に表現されている文化および「文化財」は、時代性・階級性を体現しながら、しかも変容をうけつつ、後代の階級社会におくられてゆくのである。」(584頁)

 彼はこのように言うのであるが、プロレタリア的価値意識、プロレタリア的主体の価値意識、人間主体の価値意識とは言わない。(歴史的過去について論じるのだとしても、その時代の支配階級の価値意識とか、被支配階級の価値意識とかとは言わない。)

 あくまでも、対象化されてあるものとしての「文化および「文化財」」から出発し、これに対象的に表現されてあるものとして説き起こすかたちで「社会的人間存在の「人―間」的価値意識性」が問題とされるのである。こういうことからして、人間主体の価値意識ではなく、人間と人間との間にあるものとして想定される「価値意識性」というようなものが問題とされるのである。かならず「性」という語がくっつけられるのである。

 このように論じられるかぎり、私は、それを担う諸実体をぬきさったところの関係なるものから出発する廣松渉を想起してしまうのである。

 たとえ「時代性・階級性」ということが語られたとしても、それは、「文化および「文化財」」が体現しているものとしてとりあげられるにすぎず、生きた人間そのものの階級性ではないのである。

 このような論じ方は、この『第一巻』においては、われわれの実践そのものの主体的解明については一切論じないとし、太古の昔からの社会的人間存在の歴史的発展をこの場所に畳みこまれているものとして存在論的に展開するとしていることによって許されている、といってよい。だが、前者から切り離して後者を論じるのであるかぎり、それは、歴史主義的で客観主義的なものに堕してしまうのである。

 いま引用した文の直前に書かれているのであるが「時代的な価値意識性」と表現したのでは、その時代に生きた人間主体が完全にぬきさられ、人間のいない時代と空に浮いた価値意識性なるものとが連関づけられるかたちで、価値意識性なるものが実体化されて論じられているのである。

 「「誰かが——誰かに」という社会的実体関係ないし階級関係が、したがってまたこの関係につらぬかれ浮きだしている意味(「何のために・なぜに」)や技能ないし技術(「どのように」)が、必然的に同時に把握されなければならない」(584頁)、などと語られるかぎり、これの主語部分は、敵階級にたいして・何のために・どのように・たたかうのかというように目的と手段を構想するわれわれないし階級的主体がいないところの客体化された社会的実体関係ないし階級関係と、それを考える主体がいず空中に浮かんでいる「何のために・なぜに」なるものや「どのように」なるものが関係づけられたものなのである。そのようにしたうえで、これを把握すべきだ、とされているのである。

 「この関係につらぬかれ浮きだしている意味」という表現は、いかにもおかしい。われわれが、この関係を分析することをとおして、われわれにとってそれのもつ意味をつかみとるのではないだろうか。この表現では、意味なるものが、この関係につらぬかれ浮きだしているものとして客観的に存在しているかのようである。

 黒田は、このような論理を駆使して、プロレタリア的主体たるわれわれのプロレタリア的価値意識を抹殺し、日本文化につらぬかれている日本人ないし日本民族の価値意識性というようなものを想定しているのである。

 

 

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