九 歴史貫通的な人種の設定

 

 

 『実践と場所 第一巻』における黒田寛一の次のような見解は、人類学的にみて明らかに間違いである。

 「太古の昔(約数十万年前)からこの日本列島に居住し働き生きつづけてきたヤポネシア人が、約一千七百年にわたる社会形態の歴史的変遷をつうじて、日本民族として形成されたのである。」(555頁)

 「弥生土器文化を主導的に開いた渡来人である寒帯順応型モンゴロイドと、それ以前に既に日本列島に広く分布していた古モンゴロイド=ヤポネシア族(つまり「縄紋人」)とが、雑婚することによってうみだされたのが、種族としてのニホン人であると言えるであろう。

 ところで、約三十万年前から生活していたと推定される古モンゴロイドとしてのヤポネシア族は、どこから渡来したのであろうか。おそらく数十万年前に、古モンゴロイドが北方ルート(シベリア―樺太―北海道―東北)や朝鮮半島ルートからヤポネシア列島に、また約一万年前の第四氷河期以降には、東南アジアの南方系モンゴロイドがヤポネシアに移住してきたともいえる。この意味では、「弥生人」だけが渡来人であるわけではない。

 ニホン人が、人種的にはモンゴロイド(いわゆる南方系モンゴロイドであるヤポネシア族)としての「縄紋人」と、寒帯順応型モンゴロイド(いわゆる北方系モンゴロイド)としての「弥生人」との混血からなるのだとしても、モンゴロイドという人種の成立の時期は、何時なのか。今から約十四万五千年(プラス・マイナス一千八百年)前であることが、チンパン人とネグロイド(黒色人種)とモンゴロイド=ニホン人とコーカソイド(白色人種)の四種類のミトコンドリアの遺伝子を分析することによって、ほぼ確定されたのだそうである。」(556~57頁)

 種々の細かい間違いや辻褄が合わないことがらを度外視するとして、もしもこの展開が黒田の頭のなかで整合性がついていたのだとするならば、黒田は、日本列島には約三十万年前から古モンゴロイドが生活しており、モンゴロイドという人種は、今から約十四万五千年前に成立した、と把握していた、ということになる。

 そうすると、この「古モンゴロイド」とはいったいどのような人類種なのか、ということが問題となるのである。

 もしも約三十万年前に日本列島に人類が住んでいたのだとするならば、それは、現代の日本人とは血のつながりがない原人なのである。それは、北京原人とかジャワ原人とかというたぐいの原人なのである。それは、モンゴロイド、コーカソイド、ネグロイドというように一応は分けることができるホモ・サピエンスではないのである。

 他面から言えば、日本列島に住んでいた原人から日本のホモ・サピエンスが生みだされ、ヨーロッパに住んでいた原人からヨーロッパのホモ・サピエンスが生みだされた、というわけではないのである。

 約二十万年前なり約十四万五千年前なりにアフリカでホモ・サピエンス(現生人類)が誕生し、これがいろいろと小さな枝分かれをしたのちに、その一部がアフリカを出て(第二の出アフリカ)西と東に向かったのである。西に向かった部分がコーカソイドと呼ばれるものとなったのであり、東に向かった部分がモンゴロイドと呼ばれるものとなったのである。

 「古モンゴロイド」と名づけられるべきような人類種は存在しないのである。

 このように考えてくるならば、黒田は、人類学上の誤謬を犯してまでも、日本列島に約三十万年前から住んでいた人類を想定し、それから今日の日本人への血のつながりを説いたのはなぜなのか、ということが問題となってしまうのである。黒田が、今日の日本のブルジョア国家の領土である日本列島という地理的範囲をあらかじめ設定し、そこに住んでいる人びとを「日本民族」=「ニホン人」と呼び、その祖先を「ヤポネシア族」として約三十万年前の太古の昔にまで探し求めたのはなぜなのか、ということが問題となってしまうのである。

 DNAにかんする研究がすすんでいる今日では、人種の違いということはほぼ意味がない、個人間の違いのほうが大きい、とされる。黒田がこの『第一巻』を書いた一九九〇年代半ばでも、ミトコンドリアの研究がすすんでおり、人種という概念は便宜上のものとされていた。それにもかかわらず、黒田は「人種」の違いとその起源を執拗に探究し、「種族」という概念を駆使したのであり、「古モンゴロイド」起源説という間違った見解を提唱したのである。これはなぜなのか。

 黒田は、自己の内面からプロレタリア的実存を追い出し、日本人としての自覚を棲みつかせたのだ、と私は言わざるをえない。

 

 

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