スワッピングスラム「黒胆汁」
あたし
もう
誰彼構わずまぐわうのをやめます
あたしが食べるのではない
あたしが食べられるのでもない
舐めまわされるのでも舐め回すのでもない
身を委ねるのでも委ねられるのでもない
まぐわうの
やめます
あたしにはひとりだけ
あなただけ
だから誰かと
とっかえひっかえなんて
しません
あたしね
あなたの腕の中でこんなに幸せなことってもう他にないって思いながら同時に
早く死にたいと思うの
それはね
今がいちばん幸せだから死にたいんじゃないの
ただもう消えてしまいたくて
あたしがあなたを愛しているのとも
あなたがあたしを愛しているのとも
別次元で
ああ早く死んでしまいたいなって
死んでしまえって
いつも思ってるの
泣いても無駄なの
あなたが何をしようがあたしの消えたい気持ちは無くならない
たとえあたしが死ぬことでどれだけたくさんの人が悲しみ、お金を払い、責任を取り、泣いて、また死にたくなったとしても
あたしの消えたい気持ちは
無くならない
たとえあたしが死ぬことで
どれだけたくさんの人が悲しみ
お金を払い
責任を取り
泣いて
また死にたくなったとしても
あたしの消えたい気持ちは
無くならない
MONO消しがいちばんよく消えるって
かんたんに
自分の名前をえんぴつで書いて、消しゴムできれいに消す
ノートに
消えないインクでひたすら
消えたいと
いなくなりたいと繰り返し書いた
やぶいて
バラバラになった紙を散らばして
また組み直す
新しい言葉にはならなかったけれど
何か生まれたような気がした
たくさんの気持ちを
紙いっぱいに敷きつめて
やぶいて
ひきちぎって 散らばして
大好きな本を 言葉を 詩を
紙いっぱいに敷きつめて
やぶいて
ひきちぎって 散らばして
そうしてできたのです あたしの黒胆汁の色で染まった
ゴミ箱の中が光って 生まれる
真っ黒だと思っていた体液が
排泄によりクリアになっていることに気づく
だから 消えたい気持ちを
あなたのこころと
まぜあわせて
あたらしくなにかできるかもしれない
そう思うんです
泣きながら殴ったりしないで
死ぬななんて言わないで
他の人と比べないで
めぐまれているとか いないとか
甘えているとか いないとか
そんな次元で考えていることでは
ないの
あたしの大切な
消えていなくなりたい気持ちを
取り除かないで
騙し取らないで
黒胆汁で紡いだ言葉はあたしだけのもの
いつか
あたしがほんとうにねがいをかなえて
死んで、いなくなるときがきたら
あたしの中に溢れている
黒胆汁を一滴残らずインク壺に詰めて
33日おいてから
あなたの血液100ミリリットルとよくまぜて
インクを作ってほしいの
あたしとあなたのまざったインクでなら
どんなことだって書けると思う
(3:40)