本当に心からここがホームだと思える場所なんてどこもなかった
街はときに大勢の中の一人でいていいのだと肯定してくれながら、ときに消費活動を盛んに行うよう促し、みんなと同じであることを強制し、どこかの集団に属していないことへの焦燥感をかきたてた
想像力をかき立てられると言ってくれたあのひとのすきだった詩
デスマスク
涙が流れそうになる
小説の中の登場人物があなたでないことに
胸がギュッと苦しくなる
あなたとまた会えるかもしれないと思って
あなたみたいな人が出てくる小説を探してる
でも本の中の人はあなたではないから
あなたに似てる人でもないから
わたしは泣いてしまう
また会えなかったと
ゴオッという音がして
ここが飛行機の中なのかJRの高架下なのかわからなくなる
わたしがあなたの想像力をかきたてても
あなたはわたしから想像力をうばってしまう
頭の中で結んだ像がわたしの中でどんどん解像度を失っていく
目に溢れる涙で目の前のものがはっきりと見えなかったから世界がこんなに美しいと感じたのかもしれない
ここに行けば会えるという場所が
数年前に潰れてしまって
頭の中のあなたがどんどん忘れられていく
解像度を失って
わたしは間違った方向を向いて歩いていて
色彩だけがきれいでキラキラしたところに沈み込んでいく
それからどうなるかなんてわからずに
わたしは高架下で自撮りをする
あなたにみつけてもらえないかと期待している
あなたがわたしを忘れないでいてくれればいいのにと
期待している
胸が苦しくて忘れたかった物事が喉に詰まってる
飲み込んだカルダモンの粒が心臓の奥深くにひっかかっていて心を動かすたびにあなたの音がする
1人でいたいのだと言って泣いた
生まれてこなければよかったと駅のホームで騒いでいたのはわたしだったんだよ
1人でいたいのだと言って
もう一人なのに
この街ではわたしを知ってる人はいない
わたしを包み込んでくれる場所はない
わたしの居場所はわたしの胸のカルダモンの粒が弾けるみたいにぐちゃぐちゃに散らばって言葉をなくす
どこかに居続ければよかったのに
あなたにとってわたしのひかりはガラスみたいだもう壊れてしまっていてもおかしくない
日常に埋没してしまって
見て欲しいのではなく
忘れられたくない
ただそれだけだったのかもしれない
涙の結石がコロコロと音を立ててまわっても流れ落ちてくれることはない
溢れても消えていく
あなたの泣いた顔がみられたら
わたし幸せな気持ちになれるかもしれないのに
あなたを傷つけてでも忘れられたくなかったのか
どうしてあのときにあなたを守ってあげられなかったのか
デスマスク
鏡に映るあなたの顔がふとしたきっかけで一瞬わたしの顔に重なる日がありますように
呪いと言われてもいいくらいに
涙の結石があなたのもとに飛んでいきますように