朝起きられない 対処 | ぴいなつの頭ん中

ぴいなつの頭ん中

殻付き。そにっくなーすが言葉を地獄にかけてやる

「朝起きられない  対処」という内容でGoogle検索するほどに朝起きられない女がいた。

寝入りもひどくて、昨晩は踵が千切れて足底と脚部が分断されるというイメージから離れられずに「怖い、怖い」と泣き叫びながら布団の上で大暴れしていた。違うものを想像すると一時的に収まるのだが、おさまったということを意識しだすとまたイメージが戻ってくる。
泣き叫びながら大暴れした彼女の体は深夜に消耗しきって、朝は全く起きることができない。全身がだるいのだ。
こんな日が続いているという。

誰でも朝はつらいものと誰もが言う。
戦闘機の離陸の時と同じくらいのGがかかっていると考えてもおかしくないと、彼女の担当の看護師は言った。女の家はいつも週3回くらいのペースで看護師が訪れる。看護師はいつも嘘ばかりついている、唇の厚いいやな女だった。看護師はいつも女の苦しみを軽んじる。誰でもそうだとしきりにいう。みんな大変なのだから頑張りなさいと、考え方を変えないといくら薬や医者を変えても何も変わらないと繰り返す。
女は次第に医者に行くのが怖くなった。看護師に会うのもいやになった。いやな看護師と、やたら声の小さい自信なさげな看護師が交互に、たまに初対面の全然知らない看護師が意気揚々と自分の話をしながら家に上り込むので、女はそんな看護師たちに信頼感を持てるはずもなかった。

昼間に思い出したくないからと踵のイメージは言わないでおこうと決めていた。踵のイメージは昼の方が怖くなかった。夜に思い出すとなんでこんなにも怖いのだろうと疑問に思うほどだった。とらわれるとどうしようもないのだ。逃げられないのだ。恐ろしくてたまらないのだ。

ある日、声の小さい看護師が言った。
「あなたの一番怖いものはなんですか?
わたしは蝉が怖いんです」
あやうく、女は涙をこぼしそうになった。怖いイメージ、踵のイメージが目から飛び出て決壊を起こした。
女は夜の闇が襲ったかのように大きな声で泣き叫び暴れ出した。女の母親が驚いて部屋に見に来たくらいであった。心が揺れないように常に注意を払っていた女が、うっかり心を揺らしてしまった瞬間だった。女は声の小さい看護師に踵のことを漸く打ち明けた。看護師が女の家に入って来てから実に1年半くらいのことだった。

声の小さい看護師は黙って女の暴れる様子を見ていたが、そのうち耐えかねたのか一緒に泣いてくれた。
「打ち明けてくれてありがとうございます。夜ごとにそんな怖いイメージが頭の中に去来するなら、朝には相当疲れているはずです」
看護師は手際よく医師に連絡をし、女は処方を変えられた。
それ以来、踵をイメージしてもすぐに振り払えるようになったという。