電車待ってるんけど駅でスイカバーをおいしそうに食べてるおじいちゃんがタネを律儀にすべて出している。
おじいちゃん満面の笑みでスイカバー頬張り頬張り、タネをとうめいな袋にピョイと吹いては、頬張り頬張り、にこにこ、ときどき頭痛そうにしている、
頬張り頬張り、ピョイピョイ、いたた、頬張り頬張り、ピョイピョイ、いたた、おじいちゃん楽しそうだ、初めてスイカバー食べたのだろーか
おじいちゃんは松崎しげるをミルクで7:3で割ったみたいな浅黒いしわしわの強そうな蟹顔をにんまりさせて、ピョイピョイやっている、
ホームの向かい側にいるわたしは、真正面から誰にも邪魔されずにその様子を見ていた、頑張れば、そのタネはチョコですよう!と言えたはずだ、しかしわたしは見ていた、このままいくと、皮の部分はどうするんだ、皮の部分はやわらかいから、アイスだとちゃんとわかるだろう、可食部だと、わかるだろう
いやしかし、おじいちゃんのビニールの中は溶けかけたチョコのタネたちがひしめいている、全部は見えないけど、それ後から「食べられますよ」と言われてもそうそう食べたくない代物に変わっていってしまうはずだ、早期発見早期治療、それがわたしのモットーだったはず、
きっとおじいちゃんは、スイカの種を食べると盲腸になるというまことしやかな迷信を今でも忠実に信じ守っているのだろう、やさしかった農家のご両親が教えてくれた、たくさんの処世術の中のひとつとして…
だからおじいちゃんがわたしから何か言われたとしても、それに従うかどうかはわからない、初見の他人のコンプライアンスをはかれるほどわたしはベテランではない、だけど、ここで声をかけなかったら、あのチョコたちは、食べられるのにもかかわらず、無残にも破棄されてしまうのだ!
ーーーどんなに小さなチョコの命も、大切な命なのだ、スイカのタネの形をしているからと言って、その形になるまでの苦労を思えば、無残に誤解され捨てられるなんてことはあってはならない!ーーー
わたしは、届くかもわからないが精一杯の声をだし、「おじいさーん!!!!そのタネはチョコですよーーー!!!食べられるんですーー!!!」と叫んだ!罪深いほど低俗な内気さの子孫、シャイオブザシャイガールのわたくしにとっては、これは地軸を揺るがす大冒険なのだった‼︎‼︎
南無三!!!
不幸にもちょうど私たちの間を2つの電車が行き交った。電車たちは私たちの間を引き裂いただけでなく、わたしの必死の声をもかき消してしまったのである
おじいさーーーーん!!!!
わたしはおじいちゃんが向かいのホームで電車に乗り込むのをみた。わたしも反対側の電車に乗った。車窓越しにわたしはおじいちゃんと話そうと思った。恥も外聞もなかった。わたしがチョコを救えれば、おじいちゃんはチョコを美味しく食べることができる…この誤解は必ず解かねばならぬと思った。
おじいちゃんは運良くわたしの見えるところに乗っていた。しかし声は伝わらない。わたしはおじいちゃんの手にあるスイカバーを指差し、袋を指差し、つまんで食べるまねをし、頬に指を突き立てヤミーの合図をした。
おじいちゃんはわたしに気づいた。さっきのジェスチャーを何度も繰り返す。おじいちゃんは何かに気づいたようだった。おじいちゃんは笑っていた。わたしにyummyの合図をして、にっこりして、こちらに手を振った。手を振った拍子に、持っていたスイカバーの袋と、タネの入ったとうめいな袋が揺れた
完