オーバーザパルタイ | ぴいなつの頭ん中

ぴいなつの頭ん中

殻付き。そにっくなーすが言葉を地獄にかけてやる

僕の目を奪うあの子のこと

あの子はいつもひとりだった。
いつでも無言で、ひとりだけ違うノートを持って、弱々しい光を放っていた。
顔は悪くなかったから
中の上くらいだったから
僕はあの子を気にしてた
あの子はいつもひとりでいて
泣き腫らしたような顔をして
泣き腫らしたような喋り方をした

あの子は
夏休みにひとりきりでいつも
殺人鬼のことを調べて過ごしていたと言った。
クーラーのガンガン効いた部屋で親戚の子たちが笑う声を遊ぶ声を聞きながら
鋭い刃物や凍った死体やピエロの赤い鼻を求めていたのだそうだ
自分がもし虐待被害者だったら精神異常者だったら、殺人をしてこの仲間に入れるだろうかと思ったそうだ

見ちゃったよ、あの子がいつも持ってる真っ赤な本の真ん中のページ
あの子が言ったことと全く同じことが書かれていて
大きな顔写真は
あの子が愛したアーティストで
赤とピンクが眩しくて


あの子の記憶はあの子が愛した弾き語り歌手のトレース
あの子の自慢はあの子が愛した弾き語り歌手のトレース
自分のものなんか何ひとつないから
僕らと関わることだってできなかったんだろう

あの子の世界はあの子が愛した弾き語り歌手のトレース
あの子のすべてはあの子が愛した弾き語り歌手のトレース
ひとりでいるのがこわいのに人といるのもこわいんだろう
ひとりでいるのが孤独なのに人といるのも孤独なんだろう

あの子は犯罪者になんかなれやしない
あの子が一番わかっていたのだろう
だから求めていたのだろう

生まれて来なきゃよかったって駅で倒れこんだのは去年のことか
それもわたしなんだよと話すあの子
あの子はある意味すべてなのだろう
歪んで、こじれて、白い服を一枚残らずダメにしたすべての人を
あの子はトレースする
息苦しいのは魚みたいな呼吸器官しか持ってないからだってさ
それも誰かの真似なの?

そろそろ気付いてくれてもいい
あの子の話を聞いているのは
僕ひとりだということ
いもしない妹と弟の記憶
新作の虐待の記憶
小6で受けたトラウマ
全部僕しか聞いてないよ
僕ひとりがずっと聞くよ
僕ひとりがずっと聞くから

代わりにあの真っ赤な本僕に渡せよ