壁がねあったなんて知らなかったんだよこんなところに。
ちょっとさわるとがつんとぶつかるの。
柵はあるのは知ってたよ、冷たいベッドの柵が
戦争の時代に風船爆弾の和紙を貼り合わせる仕事をしてたから、鷲の爪のようにすっかり弧をえがき円まってしまったゆびと爪。
そのゆびで大胆に空間を漁ると、そこにはいろんなものがあってそれでいて何もない。
その壁がね天井にあがってねわたしのすぐ近くにせまってきてね
耳の裏では殺せとかしねとか出ていけとか聞こえててね
いい人がいるのは知っている。いい人が話しかけてきて目薬をさしてくることも知ってる。
でも、怖いものは怖い。このベッドは時々無軌道にぐるぐる回ってわたしを酔わす。
男の人はしきりにわたしの写真を撮っている、フラッシュを感じる
もう目が見えなくなって一年は経つから闇ばかりの視界なんだけど、そのフラッシュがわたしを救うかというとそれは真逆で、ただ怖いだけ
着物きた女の子が見える、小さな女の子。可愛い子。わたしが面倒見てた、チャーコちゃん。
チャーコ、
チャーコちゃん、
しゅくだいは終わったの。
おピヤノまた弾こうか。連弾でもしよう。今日は何の曲にしようねえ。
チャーコ、
チャーコちゃん、
戦争は終わったの。
なぜそんなに泣くの、ほら拭ってあげよう、今日はどんな服を着ようねえ。
どんなもの着ていてもわたしにはわからないから、チャーコちゃん、あんたがよう見て選んでね。
ぽっけがあるやつやないとチリシ入れられんから、ぽっけのあるずぼんにしようねえ。
わたしが空間を漁るさまを、良い人は猫みたいだといってわらった。
もう猫なんかわたしの想像のなかの生き物としてしかいなくって、たぶんその思いのなかでとてもとても美化されている。
壁がねあったなんて知らなかったんだよこんなところに。
こっち側にはあったと思ったんだけど。
じゃあ出入り口は何処なの。
あんたの言うことなら信じようか。
チャーコ、
チャーコちゃん
きっとあんたのことが見えるってことはあんたはここにはいないのだろう。
めしいたわたしの両目では、見えないものが真実で、見えてるものが虚偽で、
聞こえる音はほんととうそ、半々ずつ