限りなく透明に近い白衣 | ぴいなつの頭ん中

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殻付き。そにっくなーすが言葉を地獄にかけてやる

その頃の俺は、静脈に注射した薬物の効果でハイになったままくだらねえ映画を見て過ごしていた。ヤクがきれるときまって看護師長に会いにいった…師長は俺たちがクリニックと呼んでいる隠れ家に住んでいる老婆だ。見かけに似合わずかなりやり手の売人で、そこに行けば望みのものは幾らでも手に入った。

看護師長はとりわけ俺のことを可愛がってくれた。なぜかというと、心の中で孤独を飼っていた俺が唯一落ち着ける場所がクリニックであり、看護師長はそれを見抜いていたから。ヤクを貰う代わりに、俺はいつも看護師長の話を聞いてやっていた。看護師長は、落ちぶれる前はほんものの看護師長だったんだ。

そんな看護師長が死んだ。看護師長は重い病気にかかっていた。看護師をやめたほんとうの理由はその病気のせいなんだ。すべては仕方のないことだった。俺はヤクを貰っていた人間としての後ろめたさを感じながら、親戚や家族、元同僚など、看護師長のクリーンな関係者にまざって葬儀に参列した。

水分を失った野菜みたいな、縮みきった安らかな看護師長の顔。看護師長が俺に話してくれた、看護師時代の体験。精神科に勤めていた看護師長の話はいつも狂気に溢れて刺激的だった。綺麗とは言い切れない愛情や命の話も聞けた。人は人に対して100%添うことはできないものだと看護師長は言っていた。

看護師長は俺の青春のすべてだった。クソ映画とヘロインで充ちていた俺の10年間の中で唯一の光、フツーの人間としての俺を呼び覚ましてくれる光が、看護師長だったんだ。看護師長を失い、ヤクを求めて彷徨った結果心もからだも静脈もボロボロになった俺は、クリーンになって看護師になろうと決めた。