こちらは第三話です///。
第一話はこちら→「バレンタインのお話(仮)♡1」です。
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あれは小学5年生の時の運動会。
徒競走で派手に転んだ俺は。
膝から血を流し・・・保健室へと向かった。
いつもの保険医は・・・俺以上に派手に転んだ子にかかりきりで。
ほっぽらかしにされていた俺に。
手当てをしてくれたのが・・・その時保険係だった二宮君という少年だった。
クリクリの茶色い瞳にツルツルの肌。
小学生なのに赤ちゃんみたいにフワフワした子で。
すごくかわいい男の子だった。
俺より確か2.3コ下。
なのに・・・手当はすごく上手で。
聞けば・・・幼馴染(確かまーくんと言っていたような?)が。
いつもケガばかりしていて。
その手当てをしているうちに上手くなった・・・と言っていた。
それから・・・校内で会うと手を振り合うようになり。
図書室で高いところの本に背が届かず苦戦していたのを見かけた時は・・・俺が取ってあげたり。
近所のスーパーで・・・一人で買い物してるところに遭遇し。
荷物を持って家まで送ってあげたことも何度かあった。
自分も幼かったんだけど。
それ以上に幼い二宮君に。
俺の方が年上だ・・・という感情が芽生え。
子どもだったけど・・・二宮君の前では大人の男になったように感じて。
俺にとって二宮君は守る対象になっていた。
助けてあげたり面倒見てあげたりすると。
二宮君は・・・とても素直にありがとうと言ってくれて。
いつも俺といると楽しそうに笑ってくれるから。
だからちょっと気分がよかった。
一緒にいると・・・居心地がよかったんだ。
さすがに年が離れているから。
よく遊ぶ・・・という間柄ではなかったけど。
近所の祭りで会ったり学校行事で会ったりした時は。
一緒に遊んだりしていた。
そんな二宮君が・・・なんと。
その翌年のバレンタインの日に。
俺にチョコレートを持ってきてくれたんだ。
俺の教室の前で。
恥かしそうに・・・照れながら俺にチョコを渡そうとする二宮君。
そっと差し出された小さな両手は。
紙袋の紐をぎゅっと握っていて。
きゅっと結ばれた口元。
耳まで赤くなった顔。
俺を見上げる茶色い潤んだ瞳。
俺は・・・そんな二宮君を見て。
きゅん・・・と心の奥が痛み。
ああ・・・これが。
もしかしたら恋なのかもしれない・・・と思い。
そんな・・・初めての感情にドキドキしながらも。
そのチョコレートを受け取ろうとした瞬間。
後ろから来た友達が言った。
え。男同士なのに?・・・と。
多分・・・本当に純粋な疑問だったんだと思う。
今思い返しても・・・そこにからかうような声音は感じられなかったから。
だから俺も。
そうだよ男同志だけどいいじゃん・・・と言えればよかったのに。
なんか・・・その時はうまく言えなくて。
だってなんか・・・すごくドキドキしていたから。
だから・・・もらおうとした手を引っ込めて。
俺は黙ってしまった。
じっと・・・その友達が見てるから。
だから差し出されたチョコレートを。
いつまでも・・・受け取れずにいて・・・。
そのうち二宮君が。
俺が受け取らないことに気づき。
それがどういう意味なのかわかったみたいで。
どんどん涙目になって。
しゅん・・・とした顔をして。
ぎゅっと唇を噛むと。
チョコレートを抱えるようにして持ち・・・無言で小走りに逃げて行ってしまったんだ。
その後の俺の罪悪感が・・・とてつもなく半端なくて。
直後からすごく反省した。
どうして・・・二宮君の気持ちを優先してあげられなかったんだろう。
なんで・・・友達に。
堂々とした態度で・・・言い返せなかったんだろう。
泣かせた。
あんなに俺に・・・笑顔しか見せなかった二宮君を。
俺が泣かせた。
かわいいって思ったのに。
俺。
チョコレート持ってきてくれて嬉しかったのに。
なんで自分の気持ちに正直になれなかったんだろう・・・と。
その夜は・・・なんだか泣けて泣けて。
同級生からチョコはもらったんだけど。
全然嬉しくなくて。
二宮君からのあのチョコレートが欲しかった・・・って一晩中泣いた。
翌日俺は熱を出して学校を休み。
その翌日・・・俺は学校で二宮君を呼びだした。
体育館の裏で・・・二人きり。
いつもなら体を俺に寄せ・・・ねえねえ・・・と笑顔を見せる二宮君が。
かなりの距離を置いて立ち・・・俺を見もしない姿を見て。
マジで俺は。
なにやってんだ・・・って本当に悔いた。
だから言ったんだ。
もう素直に。
ごめんって。
おととい・・・チョコレートを受け取らなくてごめんって。
頭をさげて・・・ちゃんと謝った。
すねたように・・・口を尖らせ。
俺を・・・軽くにらむ二宮君。
でもそこには・・・先日のような悲壮感は感じられなくて。
だから。
もうホント・・・膝と頭がくっつくくらいの勢いで。
腰を折って・・・深々と頭をさげ謝った。
なんで受け取ってくれなかったの?という二宮君に。
友達がそばにいたから・・・と言う俺。
じゃあいなかったら受け取ってくれたの?と言うから・・・うんと俺は頷いた。
本当なら・・・そんなの卑怯なことなんだけど。
ずるいことなんだけど。
でも二宮君はその俺の答えで納得してくれたみたいで。
じゃあ来年誰もいないところで渡したらもらってくれる?と言う。
俺は。
俺的には・・・来年じゃなくて。
今年のチョコレートを。
バレンタインは過ぎちゃったけどくれればいいのに・・・と思ったんだけど。
なんか・・・二宮君は。
バレンタイン当日じゃないと意味がないとでも思っているようで。
だから・・・言ったんだ。
もらうよちゃんと・・・と。
そう言うと。
ホント?・・・と上目遣いで俺に確認してくる二宮君。
その瞳にはもう・・・悲しみの色は見えなくて。
逆に甘えてるような・・・おねだりしているような声に聞えて。
でもそれがすごくかわいくて。
距離もさっきより近づいてくれたから。
だから・・・もっと二宮君を喜ばせたくて俺は言ったんだ。
来年のバレンタインは俺がチョコレートあげるから・・・って。
ぱぁ・・・っと。
ホントまるで花が咲いたような笑顔になる二宮君。
ひゅっと両肩を上げて・・・ちょっとぴょん・・・と飛ぶと。
口元がほころんだ。
そして。
嬉しい・・・約束ね///って言って。
俺の正面ギリギリのところまで来て。
小指を出してくるから・・・だから。
ゆびきりげんまんをした。
歌っている間も・・・大きく体を左右に揺らし。
嬉しくてたまらない・・・って顔をしている二宮君。
俺はちょっと恥ずかしくて・・・一緒には歌えなかったんだけど///。
でも謝ってよかった・・・と。
機嫌が直ってよかった・・・と。
本当にそう思ったんだ。
1年後のバレンタインには。
もっともっと二宮君の笑顔が見たい・・・と。
そう思いながら。
どんなチョコレートを渡そうか・・・って1年も先のことなのにもうすでにウキウキしていた。
でも。
それから半年後。
二宮君は・・・突然いなくなってしまった。
親の都合で。
引越をしてしまったんだ。
つづく
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