本番が始まる。
いつも生放送はバタバタで。
もう・・・それにもすっかり慣れてはいるんだけど。
それでもバタバタで。
だからやっぱり翔君はすごいな・・・と。
そう思った。
最初の嵐五人での歌唱が終わり。
翔君とは舞台袖で別れて。
バタバタしたバックヤードを・・・楽屋へと足早に向かう俺たち四人。
先頭を走る和。
そのすぐ後ろを・・・相葉ちゃんにも松潤にも譲らず・・・ひた走る俺。
まるで俺を誘うかのようにフワフワ揺れる黒髪の和。
やっと。
やっと・・・手の届く距離にきた和。
もういいよな?
俺は。
いろいろと我慢できなくなって。
楽屋へ入ったと同時に。
後ろから和を引き寄せ抱きしめた。
何も言わずに。
おとなしく抱きしめられる和。
相葉ちゃんも松潤も・・・何も言わずに俺たちの横をすり抜けていく。
和の首筋に顔をうずめると・・・甘い香りが鼻の奥をくすぐる・・・から。
そのスベスベの肌に唇を寄せた。
「んふ///くすぐったい・・・。」
「・・・。」
言いながら身もだえる和を。
ぐっと力を入れて腕の中に抱えなおし。
まだ・・・くすくす笑っている和の。
その唇を奪った。
滑り込んだ俺の舌に。
なだめるようにして一瞬だけ・・・絡められた和の舌。
すぐに離れたけど・・・かぁっと火がつき火照る体。
咎めるような瞳をするくせに。
でも・・・口元は誘うように緩やかなカーブの唇で微笑みかける和。
もう一度キスを・・・と思い近づいたけど。
ダメ・・・と唇の動きだけでたしなめられた。
ソファに座るから。
俺も隣に座る。
目の前には・・・相葉ちゃん。
すぐ横の一人掛けのソファには松潤が座っていたけど。
気を使ってくれたのか・・・二人ともほぼ同時にそこから立ちあがり。
松潤は奥の鏡の前のパイプ椅子へと移動。
相葉ちゃんは・・・入り口近くのコーヒーのある場所に。
パイプ椅子を引き寄せそこに座ってくれる。
悪いな・・・と思いつつもありがたく思う。
二人だけの・・・小さな空間が出来上がる。
寄りかかるようにして・・・ぴったりくっついてくる和。
甘えたいのは俺の方なのに。
まるで・・・和の方が甘えたいみたいにすり寄ってくる。
「あなたさ・・・探してたんだって?俺のこと。」
「・・・ん・・・。」
「言わなかったっけ?取材だって。映画の。」
「・・・。」
「どうしたのよ。」
「・・・。」
すっと。
俺の手を取ると。
くいっと持ち上げ・・・指を絡める和。
ぐぐっと深くいれたり・・・浅く絡めたり。
俺の指の間に二本の指をいれたりして。
和の一人遊びが始まる。
「坂本先輩・・・。」
「・・・ぅん。」
「かっこいいよな。」
「・・・そうね。」
「すげぇかっこいい。」
「・・・ぅん。」
「歌うまいし。」
「・・・。」
「ダンスだってうまいし。」
「・・・。」
「スタイルも顔もよくて・・・。」
「優しいし・・・大人だしね。」
「・・・。」
「ホントすごいよあの人は。」
坂本先輩を全肯定する和。
そう・・・だって事実だから。
だから・・・しかたない。
うん。
しかたないけど・・・でも。
「でもね。」
ちら・・・と。
和が俺を見て言う。
「俺にはあなたが一番よ。」
「・・・。」
「顔も声もダンスもスタイルも。」
「・・・。」
「ここ・・・心も。」
「・・・。」
「全部好き。」
「・・・。」
触れられた心が・・・ふるりと揺れる。
好き・・・なんて。
普段あまり言わない和が・・・さらりと言ってくれる。
「って言うかそんなこと気にしてたの?」
「・・・。」
「そう言えば元気なかったもんね。さっきのリハの時も。」
「・・・。」
「・・・しょぼくれちゃってさ・・・」
「なんで・・・。」
「・・・ん?」
「あれ・・・あの時・・・なんで覗きに来たの?」
「・・・。」
覗いてなんてないよ・・・と。
言われるかと思った。
天邪鬼な和のことだから。
あの時だって覗いたこと否定していたし。
なのに・・・。
「写真撮ってたの。あなたの。」
「・・・。」
「別にめずらしくないよ。けっこう撮ってるから。いつも俺。あなたのリハの写真。」
「・・・そう・・・なの・・・?」
「そうよ。恋人の写真撮って何が悪いの?」
「いや・・・悪くないけど///。」
まさかの・・・開き直り。
恋人・・・という言葉が少しくすぐったくて。
でも・・・素直じゃない感じが。
和らしくて・・・少し笑う。
「あとね・・・声。」
「声?」
「そう。あなたの生声録音しようと思ったの。」
「・・・。」
「言ったでしょ?俺『愛のかたまり』好きだって。」
「あぁ・・・ぅん。」
それは・・・聞いていた。
このコラボが決まってすぐに和がそう言っていたし。
さらには・・・この『愛のかたまり』って曲は。
リリースされたタイミングで。
剛君と仲良かった和からすでに当時何度も聞かされていたから。
だから・・・今更覚えなくても空で歌えるほどよく知っている曲だった。
「でもね・・・結局録音する前にシゲに見つかちゃって。」
「・・・。」
「だってストレッチばっかやってるんだもん二人とも・・・。」
「・・・。」
「終わったと思ったら先輩は発声練習始めちゃうし・・・。」
「・・・。」
「いつ歌うのよって・・・心でツッコんでたし俺。」
「和。」
「・・・ん?」
「俺の・・・声・・・。」
「・・・ぅん。」
「録音しようとしたの?」
「そう。」
「・・・。」
「・・・なによ。」
「和・・・どんだけ俺を好きなの?」
「だから言ってるじゃん。さっきから好きだって。」
「・・・。」
素直じゃない和の。
素直な胸の内。
俺は和に好かれている。
フツフツと沸いてくる自信。
ぐいっと・・・和に手を引っ張られ。
傾く体。
すん・・・と耳元で和が鼻をすすると。
和が言った。
「あなたの香水も・・・。」
「・・・ん・・・。」
「俺好きよ。」
「・・・。」
「あなたのさ・・・。」
「・・・。」
「汗と混ざった香りは・・・もっと好き。」
言いながら・・・体をぐぐっと押し付けると。
俺の耳を・・・耳たぶを。
ちゅぷっと・・・口に含んだ。
二人だけの時のような空気を出す和に。
ぞくっと・・・体が震え。
そんな俺に気づき・・・くすくす・・・と耳元で笑う和の声が。
俺の耳の奥をくすぐる。
俺も。
フフ・・・と笑うと。
そのスベスベの和の頬に口づけた。
番組が進み。
たくさんの曲が披露され。
シャッフルメドレーのために舞台裏に待機する。
集まったみんなでワイワイ言いながら・・・一列にお行儀よく並ぶ。
ゴミ箱へ・・・ティッシュをいれる提供バックで。
俺の後ろについた和が。
こそっと・・・耳元で言った。
「さっきの続き。」
「・・・ん?」
「『愛のかたまり』の歌詞じゃないけどさ。」
「・・・。」
「あなたも俺もさ。」
「・・・ん?」
「今までいろいろあったけど・・・。」
「・・・。」
「俺にとって間違いなくあなたは最後の人なのよ。もはや。」
「・・・。」
「それを。」
「・・・。」
「忘れないで。」
「俺だって・・・」
「ぁ・・・ほら始まった。」
「ぁ・・・。」
提供バックがスタートする。
ゴミ箱へのティッシュ投下。
こういうの・・・俺は苦手なんだけど。
今日はさ。
できる気がするよ。
案の定・・・成功した俺。
和も後に続き・・・めっちゃ笑顔でハイタッチした俺たち。
すいっと・・・ハイタッチの輪の中に入ってきた坂本先輩。
俺も和も。
笑顔で・・・先輩とハイタッチをしたんた。
つづく
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