大宮さんのBL物語です。
苦手な方はご注意を。
~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~
「和。」
「・・・。」
まーくんが。
優しい目で僕を見つめる。
「リトルリーグの時さ・・・二人で居残りして自主練してたでしょ?」
「・・・ぅん。」
「あん時さ・・・ほら・・・お絵かき教室帰りの大ちゃんとさ・・・一緒に三人でよく帰ってたじゃん。」
「ぅん。」
「あれも・・・本当は違うんだよね。」
「・・・?」
「お絵かき教室ってね・・・もっと終わるの早いの。時間。」
「・・・。」
「俺たちが終わるの・・・そっと隠れて待ってたんだよ大ちゃん。」
「・・・。」
「ただ和と一緒に帰りたいから・・・それだけの理由で。」
「・・・。」
「絵をね・・・描きながら待ってるんだって言っててさ。」
「・・・。」
「でもあのお絵かき帳。」
「・・・。」
「絶対に見せてくれなかったんだよなぁ。」
「・・・。」
「何が書いてあったんだろうね。」
「・・・っ・・・。」
思う間もなく涙がこぼれる。
わかんないけど。
その・・・お絵かき帳に何が書かれていたのかは・・・わかんないけど・・・でも。
こんなにも。
こんなにもずっと・・・愛されていたなんて。
僕が思う前よりもっともっと前から。
智は・・・僕を思ってくれていた。
いつだって近くにいた智。
僕に言えなかったのも。
全部全部・・・僕のため・・・?
「相変わらず泣き虫だな。」
「・・・翔ちゃん・・・。」
「あのな。」
「・・・。」
「子どもの頃によくさ・・・カイトあげてたじゃん。」
「・・・ぅ・・・ん・・・。」
「あん時さ・・・ほら・・・和だけ智君にカイトあげてもらってたじゃん?」
「・・・ぅん。」
「糸渡されてさ・・・あげてたでしょ?」
「・・・ん。」
「それ・・・その糸さ。智君・・・和の後ろで持ってたんだよずっと。」
「・・・ぇ・・・。」
「突風とかでさ・・・カイトが煽られて・・・和が引っ張られて転んじゃいけないからって・・・。」
「・・・。」
「和にばれないように・・・ずっと。」
「・・・。」
「糸持って・・・和の後ろに立ってたんだよ。智君。」
「・・・。」
糸が。
繋がっていた。
・・・。
・・・。
どれほどの思いなんだろう。
僕への・・・智の思いは。
どれほど愛されてきたの?
智は。
どんな思いで。
ニューヨークへ行ったの?
愛してる・・・の言葉。
どうして僕は。
その言葉をそのまま信じられなかったんだろう。
なんで・・・あの時。
僕もだよって。
待ってるからねって。
どうして・・・言えなかったの・・・?
置いていかれる悲しみにばかり支配されてしまって。
旅立って行く智の心に全然寄り添えなかった。
・・・。
・・・。
智。
・・・智。
ごめんね智。
もう・・・嗚咽・・・が止まらなくて。
声が・・・抑えられない。
とめどなく流れる涙。
うっうっ・・・と。
体をかがめ・・・うずくまるようにして泣く僕に。
翔ちゃんが言う。
「和。」
「・・・っぅ・・・っ・・・。」
「和はさ・・・智君のこと好き?」
「・・・ひっく・・・ぅ・・・っ・・・。」
「そもそもさ・・・そこなんだよ。」
「・・・っ・・・ぅ・・・。」
「智君が一番不安に思ってるとこ。」
「・・・。」
「まあ・・・俺たちからしたら答えは見えてるんだけどさ。」
「・・・。」
「でも・・・もしかしたらそれは。」
「・・・。」
「幼馴染としての愛情なのかもしれない。」
「・・・。」
「友情みたいなヤツ。」
「・・・。」
「どうなの?和。」
「・・・。」
どうなのもこうなのもない。
僕は。
僕はもう・・・ずっと。
「・・・好き。」
「・・・。」
「智が・・・好き・・・。」
「・・・。」
「もうずっと・・・ずっとずっとずぅっと・・・。」
「・・・。」
「智の・・・ことが・・・っ・・・。」
「・・・。」
「・・・ぅ・・・っ・・・智・・・。」
「・・・。」
「・・・ひ・・・っく・・・さ・・・とし・・・。」
「・・・あ~あ・・・もう。」
「・・・っ・・・っう・・・っぅ・・・。」
「吐くぞ。あんまり泣くと。」
「・・・吐・・・かない・・・っ・・・もん・・・。」
「しょうがないなぁ・・・もう。」
「・・・っ・・・っく・・・ひっく・・・。」
「ちょ・・・場所代わるから。」
「・・・っく・・・っぅ・・・っ・・・。」
「智君。こっち座って。」
「・・・ひっく・・・・・・・・・・・・・・・ぇ。」
ドクン・・・と大きく心臓が脈打ち。
一瞬・・・僕のすべてが止まる。
思考すら止まって。
・・・。
・・・。
え。
・・・。
・・・。
・・・智・・・?
顔を上げ。
振り返ると・・・そこには。
会いたくて会いたくてたまらなかった・・・智が。
智が・・・そこに立っていた。
いつ・・・からそこに・・・?
「智君あなたさ・・・俺に頼り過ぎだからマジで。」
「・・・ごめん。翔君。」
「和のことになるとさ・・・とたんに意気地なしになるよね。昔から。」
「・・・。」
「和の気持ちわからないと会えないとか言っちゃってさぁ。」
「・・・。」
「先に気持ち聞いておいて・・・だって。ガキじゃないんだからさぁもう。」
「・・・。」
言いながら・・・すっと。
智の腕に触れ・・・僕の方へと智を引っ張る翔ちゃん。
智と僕の・・・目が・・・合う。
1秒が永遠に感じる感覚。
まるで・・・ホントにまるで一瞬。
世界が止まってしまって。
僕と智の時間だけが・・・巻き戻っていくような感覚。
もうすっかり大人の智のはずなのに。
今目の前にいるのは。
カイトの糸を僕に手渡してくれた・・・あの幼い日の智で。
まるで糸の握られた手が・・・すっと差し出されたような。
そんな錯覚に陥り。
思わず手を。
伸ばしそうになる。
つづく
~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~
毎日20時に更新です。
楽しんでいただけたら・・・。
ではでは。
来てくださってありがとうございました。
.