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副将として対局室に馳せ参じた久保は、当然のことながら「ぼくくぼ」というチーム名の由来である。
その久保は対局前のインタビューで「麻雀を打つ理由は?」という問いに対し「久保の名前を世に知らしめる為」と答え、解説の独歩(以下敬称略)が語った「全雀士の名を久保にする勢いで」という話に満更でもない様子で笑った。
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ここで一旦話を脇道に逸らし、「人類総奴隷化計画」というものの説明をしたい。
世界的名門のロックフェラー家が2002年に国連総会宛に送った文書がその発端であり、『新世界秩序 即時的アジェンダ』を題したそれは、宗教活動の禁止や世界統一政府の樹立、人類の半壊から新人類の誕生までといったまさしく「人類総奴隷化」による「新世界秩序」に向けての決意表明とも取れる内容だったと言う。
閑話休題。

そしてこの2017年、なんと麻雀での「新世界秩序」形成を目論んだのが、この久保という男なのだった。
考えてみれば「ぼくくぼ」などというチーム名がそれを如実に表していて、このチームに所属したものは皆例外なく「くぼ」として麻雀を打たねばならず、これは「人類総久保化計画」の表出以外の何物でもないだろう。
勿論その元首たる久保の麻雀もイデオロギーに満ちていて「宣言牌のマタギは通る」など現代麻雀のセオリーをぶち壊す理論が後を絶たない。
では長ったらしい能書きはここまでにして、元首の麻雀を拝観させて戴こう。
人類総久保化計画のスタートである。

チーチャを引いた久保は開局早々この7pをカンチャンチー。
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何てことはない白のみのドラもないバック仕掛けで、正直鳴いても鳴かなくてもいい所である。そもそもオヤ番でこの手牌を貰ってしまった時点で、局収支は恐らくマイナスであろう。
しかし人類総久保化計画の為には、オヤ番で地蔵になどなっていられない。
ポンチーカンリーチの発生でとにかく相手に対応させ、危険牌を通し、アガリを重ねていく。
そうしてこの男は人々に恐れられ、元首への道を歩んでいった。
その後もカン7mをチーして手牌を7センチにまでした久保。
だが、独裁にはレジスタンスの存在がつきものである。
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この副将戦でのレジスタンスはイッツーが好きの川島。ピンフイーペーコー赤赤のヤミテンで、高めをツモればハネマン。
更に悪いことには、久保の手牌に1pが浮いている。
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人類総久保化計画は早くも頓挫してしまうのだろうか。
その答えは勿論ノー。ここは同じく1pの浮いていたYDT中原に先にアタリ牌を打ち出させて事なきを得た。
元首たるもの、危険事態に備えて身代わりを用意しているのは当然である。

しかしその後もレジスタンスの川島は久保に対して牙を剥き、東3局1本場のオヤ番では元首の先制リーチに押し返してメンタンツモの2100オール。
これでは流石の久保も暴力的な行為を取らざるを得なくなってしまう。
反乱分子を力で押さえつけてこそ「新世界秩序」は可能となるのだ。
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ホンイツドラ3の25p待ちで唯一ハネマンになる赤5pをツモ。レジスタンス川島に6100点をオヤ被りさせるアガリである。
実はこの局川島が第1ツモを取り忘れる少牌を犯しており、それがなければ結果が変わっていた可能性があるのだが、私にはこの少牌も元首の力が招いたものに見える。
無論この場でそういった恐ろしい行為の存在を断定することは、言論弾圧の危機もありできない。
ただ私達の麻雀仲間の中で、「少牌をさせられた」と訴える者が現れた経験があることだけは、事実として記しておく。

南場に入っても久保の執政が緩むことはなく、絶好のサンメンチャンでオヤリーチ。
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ここでレジスタンス川島の応手が難しい。
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守備気味に打つなら現物の7mを打ってヤミテン。
勝負に行くなら打8mで69m待ちのリーチだが、その8mが宣言牌のマタギである。
点棒状況もあり川島は7m切りのヤミテンを選択したが、これで脇2人を自由にさせたことが結果的にはシングル選抜照井にシャンテン押しの打8sを誘発し、久保のロンアガリとなった。

一見すれば仕方ない結果に見える。しかし、自らの手が赤赤であること、ドラも2枚見えてリーチの打点がそこまでではなさそうなこと、そして何より
「宣言牌のマタギは通る理論」
これを信用していれば、69mで勝負と行けたのではなかっただろうか?
仮にオヤマンクラスの手に打ち込みとなっても、まだ大将戦を丸々残した上でほぼ並びとなる程度であるし、直対相手から逆にマンガンの直撃+オヤ流しとなれば、勝因にもなりうる手である。

久保の689sと川島の69m、どちらが先にいたかはわからない。
ただ一つ言えることとして、副将戦の結果だけを見れば川島は前の2人以上に健闘したと言える成績だったのだが、レジスタンスが故にマタギは通る理論を信用できなかったこの局は、決勝全体でチーム「イッツーが好き」のイッキー、いや逸機ともとれる場面だったと私は考える。

次局の1本場では川島がレジスタンスの意地を見せつけるリーチピンフのツモアガリで、久保のオヤを流す。
そして南2局の終盤に、元首が難しい選択を強いられた。
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牌効率では明らかにカン7s払いなのだが、直対相手の川島が9sをチーしてソーズの一色手を匂わせており、68sが打ちにくくなっている。
ここでの久保の選択は、78p落としであった。
対局後本人に聞いたところ「川島に6sの見せ牌があったので、シャンポンやノベタンにしか当たらない6sはともかく8sは打ちづらい」との理由があったという。

ただこの場況、一目見て7sが良さそうだなと私は感じた。
川島のフーロを合わせると89sが共に全て見えており、それに対して7sはフーロメンツに1枚見えているだけ。
更に(私の知り得ない情報だが)川島が6sを持っていてかつ7sも手の内にあるとするならば、チーの時点で6778sなどの形であったことになり、とするならば4巡目に上家に切られた3枚目の58sを鳴かずに、9sでの食い伸ばしはするというのは少し不自然に思える。
するとこの場況は、他家にとって7sが非常に使いづらく、しかも持っていそうな人もいないという絶好の場に見えるのだ。

こういうカンチャン、案外入ったりするんだよな…と半ば願望に近い思いで画面を眺めていると、そこには夢で見た牌姿が映し出されていた。
私自身、久方振りに麻雀で鳥肌の立つ展開であった。
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ブラフ仕掛けだった川島は手順を歪めた分7sを所持していたが、残りの2枚はやはり山にいたのだ。
同順にオヤリーチが入ってはいるが、最早そんなことは関係ない。
麻雀には「道理」や「必然」があると前原雄大プロは語っていたが、私はそうは思わない。
しかし久保の麻雀には、「道理」「必然」を超越したものがあるのではないか。
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そう、この一発ツモこそが「新世界秩序」のハネマンである。
これが全国に配信されたことによって、人類総久保化計画は興隆の時を迎えた。
南3局のオヤ番でレジスタンスの川島は待ち枚数の差を覆す7700などでリードを広げ、オーラスも1000-2000をツモアガり大将戦を前にして有利な状況を築いたが、この副将戦で最も魅力的な麻雀を打ったのは誰か、という問いの答えが最早覆ることはない。

新世界の元首には実力も運も必要である。しかしそれ以上に市民を惹きつける魅力を備えていなければならない。
久保はその素質を確実に持っている。この副将戦を機に、人類総久保化計画は更なる広まりを見せるだろう。
ひょっとしたら私も、この観戦記を読んでいるあなたも、既に久保に魅入られているのかもしれない。

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レジスタンスの想定外な反抗があったものの、元首の活躍は確実に「新世界秩序」そして「優勝」への足がかりとなった。
大将には先鋒の中田と同じく全会一致で決められた、林という打ち手が控えている。
約30000点という差は、ウマオカのないルールではとても厳しい。
しかし、ここまで3人が積み上げてきた麻雀を全て見てきた私には、林の勝利への確信めいたものが既に浮かんできていたのだった。

大将編に続く!