かつて公共施設や公園・道路・橋梁などインフラは、公債を発行して財源を確保してきました。近年、それが、一般会計の歳入でまかなわれるようjになっています。
財源が足りない場合にも、基金繰り入れ=貯金の切り崩し、でまかなっています。

大田区では、基金が多く積み立てられていますが(2022年度決算1300億円)、基金の繰り入れの多くが、公共施設の整備などです。

インフラ財源の資金調達の方法が変わった背景には、税金が余って、それだけの基金が積み立てられているという問題があり、

なぜ、財源がそれだけ余ったか、という構造的な問題にたどり着きます。

小泉構造改革と税金が余って貯まってきた問題について、これまでも報告してきましたが、

今日は、企業会計が自治体財政に及ぼした影響から、

この税金が余って貯まっている問題について、考えてみたいと思います。

 


 

大田区では、財政基金の繰り入れの多くが、建設費などに使われていますし、近年、公共施設整備資金、新空港線(蒲蒲線)整備資金、防災対策、羽田空港対策など、特定目的基金として積み立てられ、その多くが箱モノやインフラのための基金です。

そこで思うのが、世代間の公平性です。


大田区は、年次財務報告書平成21年度決算版に、区債の機能を以下のように説明しています。

1.「財源の年度間調整」

公共施設建設など大規模な建設事業の経費を単年度の一般財源で賄うことには限界があります

区債を活用して資金を調達し、後年度にその償還を行っていくというかたちで財政負担を平準化することで、計画的な財政運営が可能となります。


2.「世代間の負担均衡」

学校などの施設は、現在の世代だけでなく将来の世代にも利用されるものです。

そのような施設の建設費用建設時の税収等で全額を負担すると、特定の世代(建設時の世代)に大きな負担が偏り、世代間において不公平が生じます区債を活用して後年度にその償還を順次行っていくことで、世代間の負担の公平性を担保することができます


ところが、いま、大田区の財政は、公債をほとんど使わず、過去の世代から多く集めた税金を積み立て、そこから繰り入れ使っているのです。


羽田の跡地165億円を負担した10年前の区民は、転居しているかもしれませんし、すでに亡くなっているかもしれません。


作るインフラは、使う世代で等しく負担するという財政の大原則が失われているのはなぜでしょうか。

 

平成 22 年 9 月、総務省に「今後の新地方公会計の推進に関する研究会」が発足し、

財務諸表の作成についての検証や、国際公会計基準及び国の公会計等の動向を踏まえた新地方公会計の推進方策などの検討が重ねられるようになりました。

自治体財政に、減価償却という考え方が無いため、複式簿記の採用がうたわれ、夕張市の財政破綻から、財政健全化法を定め財政状況を統一的な指標で明らかにするなど、企業会計的な要素が取り入れられるようになっています。

こうした財政動きを踏まえ、

大田区は2010年の年次財務報告書の中で、


「大田区は、
1年間の行財政運営の結果である決算を、単式簿記・現金主義の考え方だけではなく、
複式簿記・発生主義の考え方もあわせ、

様々な視点から分析し、

区の経営状況を分かりやすく、
積極的に公表していきます。

行財政運営の成果や行政コストの実態を包括的、総合的に区民の皆さまにご説明し、よりレベルの高い説明責任を果たしていきます。」


と記しています。

 ところが、この記載は、この年度を最後になくなってしまいました。
 

自治体財政に求められる特定の世代(建設時の世代)に大きな負担が偏りや、世代間の公平性が失われ、

企業会計の考え方で、財政が評価されるようになっているのが、今の自治体財政ではないでしょうか。



財政健全化法に定められた、4つの指標はいずれも、自治体一般会計の赤字、公営企業を含む赤字、借入金の大きさ、財政規模に対する負債の大きさなど、将来の世代の負担をマイナス評価するものばかりですが、

剰余金が生じ、基金に積み立てられるほど、今の世代が税金などを払い過ぎていることについての評価の指標はどこにもありません。


過去に比べ、基金がたまっている状況は、大田区だけのことではありません。日本全国で基金が22兆円も積みあがっています。


それぞれの自治体に個別の状況がありますから、私が発言する立場にはありませんが、

少なくとも、小泉構造改革の国から地方への地方分権と三位一体の改革やその後の税制改正が招いた結果だと思います。

本来であれば、国と地方で見れば、

基金に積み立てるほど税収が地方に偏っているわけですから、
三位一体改革を元に戻すべきだと思いますが、

地方分権一括法で、こうした状況を招いているものの、住民税にかかわることは各自治体の問題だから自治体が減税等はすべきというのが総務省の考えです。

剰余金を分配するしくみに無い自治体会計が、

現役世代に多めにご負担いただき、
将来世代の需要のために、現役世代が将来の需要まで、上乗せしてご負担いただいている今の財政運営は、

世代間の公平性から適正と言えるでしょうか。


今年、国は、1兆円の財源不足を理由に所得税などの増税を決めました。

一方の自治体では、22兆円の基金が積みあがっています。国と地方の財政バランスは今のままでいいのでしょうか。