フェアな民主主義 奈須りえです。

大田区議会は、羽田空港増便と飛行ルート変更の問題について、昨年、平成26年6月18日、第二回定例会中の羽田空港対策特別委員会に『首都圏空港のさらなる機能強化に向けた技術的な課題に関する検討結果の中間取りまとめ』の報告という形で知らされました。
 翌々日の第二回定例会最終日、松原区長は、閉会のあいさつで次のような発言をしています。

「国の関係部局から首都圏空港機能強化技術検討小委員会の『首都圏空港のさらなる機能強化に向けた技術的な課題に関する検討結果の中間取りまとめ』についての説明を受けた。空港の運用や飛行ルートが、地域の騒音問題に密接に影響する。特に、都心上空を飛行する案や、B滑走路から西方面へ離陸する案は、区民生活に重大な影響を及ぼすことが懸念される。大田区はかねてから朝7時台のA滑走路北向き離陸左旋回の運用を廃止するよう国に求めて、取り組んでいる。今後の国との協議においては、区民の生活環境を守る観点から、左旋回廃止を含め、航空機騒音の低減に向けて、東京都や周辺自治体とも連携しながら適切に対応していく。」

その後も、松原区長から「国に対してさらなる騒音影響が懸念されることを指摘した上で、今後十分な情報提供とともに、地域住民に対して丁寧な説明を行うよう強く要請した」などと報告を受けています。

ところが、その後、表立った動きが区民から見えないまま、1年以上が経過し本年7月になって、ようやく国は「オープンハウス型説明会」という名前で意見聴取の場を設けました。

要領よく、高いデザイン技術を駆使してまとめられたパネルは、説明者の伝えたいことを伝えるには十分で、まるで企業のプレゼンテーションのようでした。しかし、「説明員に聞いてもこたえてもらえなかった」、「はがきに書いて送るよう繰り返すばかりだった」という声を多く聞きました。会場の画面とともに流されていた音響は、示された着陸時の高さに合わせて流された騒音ではなく「リアルな音を流すとうるさいので小さな音で流している」ことが判明するなど低空で飛ぶことの騒音影響をさほどでもないと誤解させるような不誠実な展示方法もみられました。

国が公表しているオープンハウス型説明会の特徴であるはずの「きめ細やかに情報提供できる」ことにならなかったばかりか「参加者から意見、質問、懸念等を丁寧に聴取する」ためのメモもとらず、開催者側の説明したいことを繰り返すばかりで、「担当者との自由な対話」にならず、課題に示されたとおり「議論が深まらない説明会」に終わったといってよいのではないでしょうか。

しかも、「いつでも参加可能」が売りのはずでしたが、参加者は人の往来が多い本庁舎で465、最も大きく関係する地元羽田文化センターで135人という結果でした。そもそも、今回の羽田をはじめとした大田区民にどれほど伝わっているでしょうか。羽田では、出張所や文化センターに事前のお知らせ掲示がなく、事前に職員に問い合わせたところ知らなかったという話も伝わってきています。

B滑走路西方向の影響を考えれば、六郷地域での説明がなかったのも問題です。大田区は今回の説明会を意見聴取の場と位置付け、この説明で終わることはなく、今後、説明を求めるなどといっています。

区民が今回の増便問題で知りたいのは、「いつから、どの時間帯で、町名含めたどの地域を、どのくらいの頻度と高さで飛行機が飛ぶか、その安全性や騒音の影響が、現在から『増便や飛行ルート変更後』にどう変わるのか」といったことです。加えて、この問題は、「機能強化」と定義が曖昧な言葉で説明されている通り、第五滑走路建設や横田空域、軍民共用など、財政や安全保障の問題とも密接に関わっている問題で、それらが、今後どう関係していくかということも気になっています。



羽田空港の現状運用を変更する場合は大田区と協議を行うとなっているとなっている通り、運用変更にあたって大田区の姿勢が非常に重要な位置を占めています。羽田増便問題におけるキーパーソンは大田区です。
 ところが、大田区は公表されて1年以上が過ぎながら「移転騒音対策連合協議会」を除き区民に対し公には何もしていません。協議を行う区民を「移転騒音対策連合協議会」だけとし、約30人の町会長たちを説得して増便問題の合意形成をはかろうとしているわけではないと思いますが、大田区民に対する動きがまったく見えません。
① そこでうかがいます。

 大田区は、何をもって大田区民に対して十分な情報提供と丁寧な説明が行われたとするのでしょうか。

このまま漫然と国のペースにのれば、昨日も品川上空を低空で飛びましたが、品川区が国に対して第五滑走路と書かれた要望書をHPで公表するなど既成事実化が進み、国の想定する工程は進むばかりではないでしょうか。 

大田区民に対し、十分な情報提供と丁寧な説明がなされるよう、大田区が、今後、いつまでに国や東京都、関係自治体などに対し何をしていくのかお示しください。





羽田の増便問題は、議事録の大田区の言葉を引用すれば「大田区民にとって非常に大きな安全面、また環境面でも影響があり、学識経験者によりこれまでタブー視されていた都心上空を飛ぶという世界でも類をみない重大な問題」になるわけです。

 しかも、この問題を考える私たち大田区民は、戦前、敗戦後を通じ歩んできた羽田空港の歴史的経緯を忘れてはなりません。この歴史的経緯とは単に何が過去に起きたかという問題だけでなく、私たちがいま、どこに立っていて、どこからきて、どこに行こうとしているのかという問題です。

過去の大田区議会の記録、意見書、要望書などから歴史を紐解き一部をご紹介します。

「B滑走路を海側に拡張し、海面に向けて離陸せしめるようにとの意味は、空港そのものを拡大させようとするものではなく、中省略、人家とB滑走路との間隔を大きくして、爆音被害を少なからしめようとするものであると理解する」「終戦直後、占領軍の強制立ち退き命令によって住居も、工場も、穴守稲荷神社も取りこわし涙を呑んで立ち退いた。住民の大きな犠牲の上に占領軍の飛行場が建設され、今日の東京国際空港が設置された。」「当時の居住者はもとより大田区民は空港の敷地は大田区民の住宅地として公園として平和で静かな昔のものにかえしてもらいたいとの切実な願望を持つ」「連日連夜のジェット機の爆音に苦しめられ、その救済を求めてきた」「ジェット機の爆音に悩まされてきただけでなく、昭和10年森ケ崎の上空において旅客機と練習機が衝突し人家に炎上して多くの死傷者を出した…中省略…本区住民は航空機墜落事故に対して非常な危険を感じている」「区民の意思に反して羽田空港には未だ米軍用機および米軍用チャーター機が離着陸しております」

忘れてはならない歴史的経緯とは空港周辺の安全や騒音などと常に隣り合わせに生活してきた羽田を中心とした大田区民が、大田区や大田区議会とともに大田区民の暮らしを守るため運動し歩んできた道筋です。

 私たち大田区議会は、この歴史的経緯の中で、航空機爆音被害の軽減や墜落事故の不安解消に向けた改善や対策が遅々として進まないことに業を煮やし、こうした住民の声を背景に、「安全と騒音が守られない限り空港の撤去を求めるという決議」を行い、だから空港を沖合に移転させようということになったわけです。

この沖合移転がいつの間にか沖合展開という言葉にかわり、騒音や安全のために住宅から離す意味合いが薄れていると指摘する区民もいます。現在大田区が唯一熱心に説明をしている、「移転騒音対策連合協議会」の名前がその名残りのようにさえなっています。

② そこでうかがいます。

騒音と安全が確保されない限り困るんだ、空港は要らないんだという沖合移転の歴史的経緯からみれば、安全確保や騒音被害をさらに改善していくというのが大田区が歩んできた道筋です。少なくともD滑走路の環境アセスメントの内容、平成22年の国との取り決めが遵守されるというのが現在の大田区の立場です。この歴史的経緯を守り今回の増便問題に取り組むべきと考えますが、いかがでしょうか。



また、テレビ出演した際区長は、この増便問題について、賛成なのか、反対なのかをたずねられ、反対であるとその場でこたえることができなかったと聞きました。歴史的経緯からみれば、左旋回やハミングバードなどをさらに縮小させなければならないのが大田区の立場です。歴史的経緯を尊重できない立場なら、その理由は何かお答えください。



そこで、私たちが考えなければならないのが空港との「共存共栄」という問題です。大田区の共存の前提には「騒音と安全」の確保があり、「確保されない限り空港の撤去を求める」、ここが大田区の原点です。

そのうえで、たとえば、平成19年2月に区が意図していた共存共栄は、「国際線が移転した後、羽田のまちがすごい寂れ方をしました。直接的な業務に従事していたタクシー、クリーニング、アパート業者、食堂、弁当屋さん、そういう方々は大きな被害を受けた。」といった区民の生業(なりわい)の問題でした。

今回の増便について国土交通省は豊かな暮らしのためにといいますが、国が予測する乗客数と発着回数から一機当たりの乗客数を割り出すと増便の根拠の背景に機種の小型化という航空会社の経営効率の側面がみえてきます。

同時に国の国産小型航空機販売戦略や作って作りすぎてしまった多くの地方空港の事情も関係していると指摘する専門家もいます。

大田区の説明する経済は「クールジャパン、成長戦略、外国との交流・連携、アジアを中心とした海外の活力」など言葉は立派ですが、区民の生活は不在です。大田区は「日本の経済成長ということを考えたときに、やはり外国との交流・連携、それから活力の取り込みという観点を掲げておりまして、一過性の観点からの容量拡大ではない」といいますが、経済産業省が2002年の通商白書で、すでに日本をはじめとした先進国は経済的にはもう収束期に入っていると指摘しています。量の拡大による経済成長期にはないということです。

まさか、大田区が、オリンピック後の航空機需要を国際のみならず、国内まで右肩上がりで見込んでいる国の根拠を鵜呑みに、経済成長のために増便が必要だと言っているわけではなく、責任ある大田区としての根拠や見解がおありだと思いますが、どこが持続可能な数字見込みなのか発言した職員に説明を求めたい気持ちです。

③そこでうかがいます。

本当に今回の増便と飛行ルート変更は、区民生活との共存共栄が可能でしょうか。

大田区は増便と飛行ルート変更による空港との共存共栄についてどのような区民の生活や環境をえがき使っているのでしょうか。たとえば税収、雇用、賃金はどれくらい見込めるかなど区民生活への具体的なメリットが見えません。お示しください。

世界に類をみない密集市街地を低空で飛行するルートについて、安全性や騒音から被るデメリットと経済的メリットや利便性のなかで、大田区民、大田区議会そして、大田区は今後、判断を迫られることになります。

専門家は「9.11で当初マスコミは小型セスナ機が突っ込んだと報道していたが、ジャンボであると訂正させた。これは、NYの空をジャンボ旅客機が飛ぶなどというのは誰も想定しえないからおきた誤報。このことからも今回の羽田の飛行ルートがいかに通常ではありえないことだというのがわかると思う」と指摘しています。密集市街地を低空で旅客機が飛ぶことは想定されていないということです。

これは、万が一機体が不安定になっても、高度を確保していれば立て直せること。着陸時に、零下の上空を飛行していたことで付着していた氷が、車輪を出したりする際に落下する可能性が高まるため、車輪を出す場所は海や山など市街地を避けることが鉄則となっていること、などとも関係しています。

大田区の「千葉県もいろいろ影響を受けている。特別区の中でも、江戸川区であるとか、ほかの自治体も影響を受けながら、全体の中でどういうバランスをとりながらということで取り組んできたということは、忘れてはいけない」という発言は問題のすり替えではないでしょうか。

千葉県はじめとした他自治体の影響も、法で制限されていた石油コンビナードの上空を飛行するルート設定の問題も、安全性や騒音を度外視した増便ありきで設定した飛行ルートの問題であり、大田区民が我慢してすませるべき問題ではありません。ここには「安全確保や騒音対策のために東京湾をどう使うか」がすっかり抜けてしまっています。

松原区長就任後、大田区政における羽田の問題は、「跡地の開発」という経済的視点にとってかわり、沖合移転の目的であった騒音対策としての緩衝帯や住宅から遠ざけるといった意味合いで語られることがほぼなくなってしまっています。

経済は、時に基本的人権を大きく侵害しても経済利益を追求しようとします。

そこで伺います。大田区は、「増便とルート変更ありき」でしょうか。区民生活を最優先に、安全性の確保や騒音の解消につとめていただきたいと思いますがいかがでしょうか。それとも、竹中平蔵氏をして「ミニ独立政府」と言わしめた規制緩和により経済利益を民間事業者の投資の視点で拡大させる国家戦略特区を区長政策としているので、企業利益を優先させ住民の安全や環境は侵害してもかまわないというのでしょうか。