何のための沖合移転事業だったのだろうか。いま、大田区民の間ではこのような気持ちが蔓延しています。

莫大な費用をかけて完了した羽田空港沖合移転事業。

この発端には大田区議会の騒音と安全が確保されない限り空港を移転するという決議があります。

ところが、国交省の小委員会のとりまとめをもとに国交省は沖合移転約束した飛行経路を根本から変更しようとしています。

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今回の飛行経路変更にあたって、大田区議会も大田区も非常に動きが悪い、と感じるのは私だけでしょうか。

大田区議会で、議論が深まらない、説明が不十分と評判の悪かったオープンハウス型、でない説明会開催の陳情が採択されました。
ところが、その後、品川区では従来型の説明会が開催されていながら、大田区では開催されていません。

先日、国交省が11月10日締め切りで意見募集を行ったのですが、区議会には報告もありませんでしたが、国交省は大田区に伝えたと言いますから、大田区が議会に報告しなかったことになります。
大田区が飛行ルート変更に関わる問題を軽視し、あるいは、区議会や区民を軽視しているということです。

11月10日締め切りで意見募集が行われていたことを知り、大田区の羽田空港対策特別員会委員長に文書で委員会の開催を要求しましたが、「意見はこれからでもいえるから」と開催しませんでした。

国交省の原案は、どうとりまとめられたのでしょう。
採択された大田区の陳情意見は反映されないまま、12月11日から大田区はじめ関係地域各地でパネル掲示が始まろうとしています。

沖合移転について、騒音や安全を大きく問題視し、区民も巻き込み積極的に推し進めた大田区ですが、政府がいま、それを反故にするプランを作ろうとしているにも関わらず、全くと言っていいほど動かないことに大きな違和感を感じます。

一つは、経済利益最優先の昨今の政治があり、国交省も大田区長もそれに従っているということでしょう。

もう一つは、沖合移転は、土木建設工事を伴う公共事業という側面から動かされてきたというとらえ方です。

このあたりは、昭和59年の運輸白書沖合展開の経緯をみるとわかります。

発端は航空機騒音問題の抜本的解消でしたが、沖合展開事業計画の目的は、その一に航空輸送力の確保が入り、騒音問題の解消が目的の二番目に変わっているからです。

莫大な税金を投入して、沖合に空港を移転させると、さらに、移転で生まれた空地(跡地)を大田区は500億円もかけて開発しようとしています。しかも、大田区は、この跡地に騒音の緩衝帯や緑地の機能はないと公言しています。
羽田やその周辺に住む方たちの中には、この開発計画は白紙撤回せよという方が少なくありません。
現在跡地開発計画に関わる意見を募集中です(11月26日まで)


今回の増便や飛行ルート変更の中間の取りまとめには「第五滑走路建設」が入っていましたし、募集した意見の中にも「滑走路建設」が入っています。

そして、私たちの家の上を低空で飛行機が飛ぼうとしています。
いったい何のための沖合移転だったのでしょうか。






以下昭和58年の運輸白書より





(3) 東京国際空港の沖合展開事業

 ア 沖合展開事業の経緯

       (地元要望と調和した沖合展開)

     運輸省は,東京国際空港【★1】航空機騒音問題の抜本的解消【★2】今後の需要増大に対処するため,46年頃から長期的視野にたって整備計画の検討を進めてきたが,52年3月,東京都知事から,現空港の羽田沖への移転を前提に地元を含めた話合いの場を設けて欲しいとの要望があり,52年8月,運輸省,東京都及び地元区で構成する「羽田空港移転問題協議会」(以下「三者協議会」という。)が発足した。

        運輸省は,三者協議会における意見交換を進めるとともに,これと並行して沖合展開計画試案を作成し,53年12月,これを三者協議会に提示した。この試案については,地元区からいくつかの要望が提出されたため,運輸省はさらにこれに関する検討及び調整を重ね,要望をできる限り取り入れた修正案を提示し,56年6月,滑走路配置等基本的事項について合意に達した。

        ついで運輸省は,この基本的合意を踏まえて具体的計画を策定するため,56年10月に建設省,東京都及び運輸省からなる「東京国際空港沖合展開計画連絡調整会議」を設置し,この場で廃棄物埋立計画,道路計画,鉄道計画等の関連事業との調整を図った上で,58年2月,東京国際空港整備基本計画を決定した

  その後,航空法に基づく飛行場の施設変更の手続,東京都条例に準じた環境影響評価の手続を経て59年1月に工事に着手することとなった。

 イ 計画の概要

       (空港能力の向上と騒音問題の抜本的解消)

        東京国際空港は,国内航空交通の拠点として全国36空港との間に1日約400便のネットワークが形成され,年間約2,200万人の人々に利用されている。

        本空港の離着陸処理能力は,46年頃よりその限界に達し,53年5月に成田空港が開港したことにより,しばらくの間若干の余裕が生じたが,その後に増便が行われたこと等により今や再びその限界にきている。

        本計画は,首都圏における国内航空交通の拠点としての機能を将来にわたって確保するとともに,懸案であった航空機騒音問題の抜本的解消を図るため,羽田沖の東京都廃棄物埋立地を活用し,現空港を沖合に展開するものであり,次のような目的及び特徴がある。

 (ア) 航空輸送力の確保

        高速性,定時性等優れた特性を有する航空輸送は,我が国の地形からみて,また,時間価値の増大に伴う高速指向が強まる中で,今後ともその需要が増加していくものと見込まれる。本計画に基づき,沖合に3本の滑走路等空港諸施設を展開することにより,羽田空港の首都圏における国内航空交通の拠点としての機能を将来にわたって確保できることとなる。

 (イ) 騒音問題の解消

        東京国際空港は住宅地に近接しているため,航空機騒音問題が生じており,従来から飛行経路の改善,民家の防音工事等種々の対策に努めているが,問題の抜本的解消に至っていない。本計画に基づき現空港の沖合に滑走路を移設することにより,飛行経路を市街地から遠ざけるとともに,新A滑走路の北側への離陸,北側からの着陸及び新B滑走路の北側への離陸を原則として取りやめることにより,騒音問題の抜本的解消が可能となる。

 (ウ) 廃棄物処理場の有効利用

        本計画は,現東京国際空港沖の東京都廃棄物埋立地に滑走路,ターミナル施設等の空港施設を建設しようというものであり,深刻な都市問題である廃棄物の処理と空港整備の両立を図っている。

 (エ) 空港跡地の利用

        空港を沖合に展開することにより,現在の空港用地の一部を開放し,都市施設整備のために有効に利用できる。

        また,本計画においては,新A滑走路(3,000メートル),新B滑走路(2,500メートル)及び新C滑走路(3,000メートル)の3本の滑走路を整備することにより,滑走路の離着陸処理能力は年間で現在の17万回から24万回に,一日当たりでは同じく460回から660回となり,航空機の大型化と相まって輸送力は飛躍的に強化され,現在の約4倍にあたる年間8,500万人程度の乗降客を取り扱うことが可能となる

        3本の滑走路に囲まれたターミナル地域には,ほぼ中央部に旅客ターミナル地区,その北側に貨物地区,南側に整備地区を各々配置することとしている。

        空港へのアクセス交通施設としては,道路及び鉄道の導入を計画している。道路については,既存の環状8号線と首都高速道路1号線に加えて,建設中の湾岸道路との取付けを計画している。

        一方,鉄道については,西旅客ターミナル供用開始時にモノレールを同ターミナルまで延伸し,京浜急行空港線をモノレールに接続する地点まで延伸するとともに,東旅客ターミナル使用開始時には,モノレールを同ターミナルまでさらに延伸することを計画している。また,将来の東京国際空港への旅客輸送需要の動向等を勘案し,適当と認められる時点において京浜急行をターミナル地区まで延伸する計画である。

 ウ 事業の進め方

       (関連事業と歩調を合わせて段階的に実施)

  本事業は,現空港がもつ施設を最大限に活用しつつ,今後の航空輸送需要に対応できるよう段階的に順次沖合に展開しようとするものである。したがって,新施設の整備のテンポ,現有施設の飽和年次及び工事中における機能の確保を考慮し,関係者と十分調整のうえ,段階的に移行させる必要がある。
  また,一方では,用地を造成する廃棄物埋立事業,湾岸道路等の道路事業及びモノレール等の鉄道整備と整合性をとりつつ進める必要がある。
  これらのことから本事業は全体の工程を次の3段階に分けて行うこととしている。
 〔第1期〕
  現廃棄物処理場の陸側部分の陸地化を待って新A滑走路を整備する。これが供用されると既成市街地に及ぼす航空機騒音が大幅に減少し,離着陸処理能力も増加することとなる。
 〔第2期〕
  湾岸道路の整備に合わせ,駐機場及びターミナルの一部を完成させ,現在のターミナル機能を移転させる。
 〔第3期〕
  新廃棄物埋立地の陸地化を待って,新B滑走路,新C滑走路の整備やその他の工事を実施し,沖合展開を完了する。