国家戦略特区法案が公表
され、「どぶろく特区」に始まった特区は、今や、教育、労働、医療など、国家政策の根幹に関る規制を次々取り払おうとしています。
特区が本格的にスタートした構造改革特区審議の際、小泉総理大臣は、特区を全国規模の規制改革の突破口となる有効な手段であると発言しています。
突破口と位置づけられた特区による規制緩和が突破してきたものは何だったのでしょうか。
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【どぶろく特区から公立学校の民間委託に】
構造改革特区の際に、区域を限定した特区という規制緩和のしくみは、一国二制度や法の下の公平性といった観点から法律制定時に国会でも議論になりました。
その時に良しとされる論拠として使われたのが地域主権という言葉でした。
確かに、当初の「構造改革特区」では、どぶろく特区に象徴されるような、地域の特徴に応じ地域の努力をうながす制度としての意味合いが大きかったように見えます。
ところが、今回行われる規制緩和の内容は、公立学校の民間委託を可能にすることであり、労働契約法における雇用期間の規制緩和であり、学校教育の民営化であり、病床規制の緩和です。
【特区は規制改革の突破口】
構造改革特区の審議の際に、小泉総理大臣がこんな答弁をしています。
平成14年11月8日衆議院本会議小泉総理大臣答弁より
経済の活性化のためには、規制改革によって民間活力を最大限に引き出すことが必要ですが、全国的な規制改革の実施は、さまざまな事情により進展が遅い分野があるのが現状であります。
構造改革特区は、規制は全国一律でなければならないという考え方から、地域の特性に応じた規制を認めるという考え方に転換を図り、地域の実態に合わせた規制改革を通じ、それぞれの地方が知恵と工夫の競争による活性化を目指すことで、全国に多様な構造改革特区の実現を目指すものであり、全国規模の規制改革の突破口となる有効な手段であると考えているところであります。)
【地方分権が規制緩和突破の方便?】
これは、こんな風に言っているように私には読み取れます。
労働関連法や保険制度、学校教育法等そのものを変えることは国民生活への影響もあり難しい。特区ということで部分的に展開することは、一国二制度や法の下の公平性から言えば、問題があるが、地方分権や地域主権という考え方で、特区を突破口に全国規模の規制緩和をするのが有効だと思う。
構造改革特区によって、規制緩和の突破口が開かれたわけです。
そう思うと、地方分権とは一体何だったのだろうかという疑問もわいてきます。このあたりの私の思いは、以前にレポートしていますので
(行政改革の一手段~政界・財界が望んで大きく動いた地方分権~
)、そちらをご覧ください。
【法の下の平等も原発事故後の混乱で突破?】
そして、原発事故の直後にもう一つの困難を突破します。
それが、法の下の公平性の問題。総合特区法により、税財政措置が始まります。
震災直後の混乱している中だったから、一区域への税財政措置に違和感を持たなかったのかもしれません。
しかし、被災地に対する税財政措置と経済政策における一部の区域へ特区としての税財政措置は全くその意味合いが違います。
【突破された住民の同意】
憲法第九十五条は、
一の地方公共団体のみに適用される特別法は、法律の定めるところにより、その地方公共団体の住民の投票においてその過半数の同意を得なければ、国会は、これを制定することができない。
としています。
、「特区」だからと進められてきた規制緩和は、憲法95条の特別法には当たらないと政府は位置づけているようです。理由は、希望すればその区域で展開できる、実質法改正と同じという解釈です。
一部だけ規制緩和すれば、受けるサービスも、自治体に入る税収も、場合によっては、公私にわたり支払う負担も変わる可能性があります。特区の規制緩和としたことで、本来行わなければならなかった国民生活への影響が検証されなかったという側面は無いでしょうか。
まさに、「特区」として小さく産んで、住民の同意を突破し(民主主義の手続きをすり抜け)、規制緩和が大きく育とうとしています。
【突破は適正か妥当?合法?合憲?】
それでは、「突破」は、適正だったのでしょうか。
それとも、法律や条例、憲法上取るべき手続きをとっていないのでしょうか。
憲法、法律、条例違反かどうかは、判じられませんが、妥当かと言えば疑問点はいくつも浮かびあがります。
たとえば、
●本来であれば、一部の自治体に適用される法律なら必要な区域住民の意思を問う手続き=住民投票が、全国どこでも適用可能だから不要と言った抜け道のような解釈をするのは、国としてどうなんだろう。とか、
●今回、ベッド数の規制を取り外し、病院ベッドが増えることになるけれど、ベッドが増えれば医療保険会計が悪化する可能性がある。特に、区市町村毎の保険者で運営される国民健康保険への影響が気になるけれど、区市町村住民の意見が反映される場面が見当たらないが、それで良いんだろうか。とか、
●都心居住促進のための容積率・用途等土地利用規制の見直しをすると言っているけれど、東京都と23区は固定資産税・法人住民税を財政調整している。東京都がアジアヘッドクオーター特区を国家戦略特区に申請していて、その区域は、千代田、中央、港、品川、渋谷、新宿、江東、大田の8区だけれど、これらの区域で統轄事業者と認められると固定資産税は100%減免。8区は(住民税が増えるかもしれないので)ともかく、残りの15区は、特区と関係ないのに税収が減ることになるかもしれない。少なくとも、都と区の間での協議は必要なんではないだろうか。とか、
特区だからと進めて良いのか気になることは、これ以外にもたくさんあります。
【突破した向こうにあるもの】
国家戦略特区法の提出理由(下記参照)みると、なぜこの法律を提出したいかという政府の意向が読み取れます。
【国家戦略特区法の提出理由】
我が国を取り巻く国際経済環境の変化その他の経済社会情勢の変化に対応して、我が国の経済社会の活力の向上及び持続的発展を図るためには、国が定めた国家戦略特別区域において、経済社会の構造改革を重点的に推進することにより、産業の国際競争力を強化するとともに、国際的な経済活動の拠点を形成することが重要であることに鑑み、国家戦略特別区域に関し、規制改革その他の施策を総合的かつ集中的に推進するために必要な事項を定める必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。
経済活性化のために、規制を緩和して(構造改革)、産業競争力強化と国際経済活動拠点を作るといっているわけです。
私たちが、いま、確認しなければならいのは、日本が国際的な経済活動の拠点になるということが、どのようなことかということです。投資を呼び込む、外国企業を呼び込むと威勢のいい言葉は並びますが、呼び込まれた投資による利益は、いったいどこへ行くのでしょうか。国のみならず、地方自治体まで巻き込んで財税制優遇措置を行い、利子補給した外国企業がオリンピックが終わった日本に再投資する保障はありません。
同時に提案されている産業競争力強化法に対し、この法律が、国際競争力強化法ではないという意味を改めて考えてみる必要があるのではないでしょうか。