後見制度と選挙権 | 学びの冒険者 原口直敏Side←L "The Logical Brain Monster"

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成年被後見人の選挙権の制限に対する違憲判決が出た。
3日前の3月14日(木)、東京地裁でのことです。

同様の訴えが複数出ていること、
第一審であることから、
これを最終判断と考えるのは早計でしょう。
しかし、大きな問題提起であることは間違いありません。

そんな訳で、この判決について
ちょっと考えてみようと思います。



■そもそも成年後見人制度とは?

成年後見制度は比較的新しい制度なので
「分からない」或いは
「なんとなく分かるような・・・」と言う方が
多いのではないだろうか。

民法改正により2001年1月1日から
施行された制度です。
昔「禁治産者」と言う言葉を
聞いたことがあるでしょうか?
この制度に対しては批判が多かったのですが、
これに変わる制度と言えるでしょう。

制度趣旨としては、
判断能力を欠く者、又は充分でない者に
後見人等を立て、
経済的な不利益から保護することです。
従って、被後見人等の不利益が全くない取引に関しては
例え後見人等が拒否しても裁判によって被後見人自身が
行うことが可能となります。

そして、保護するレベルは、
以下の3段階に分かれます。

1.被後見人 ・・・ 判断能力を欠く者
2.被保佐人 ・・・ 判断能力が著しく不足している者
3.補助人 ・・・ 判断能力が十分でない者

ここで言う判断能力は、
例えば不動産を売ったり、買ったりするような
大きな金額が動く複雑な取引をする際の
判断力を指します。

つまり、日常的な行動については、
一番重い被後見人でさえ対象外なのです。



■選挙権はどう制限されているの?

それでは、具体的にどの様な条文で
選挙権が制限されているのでしょうか?

これは皆さんご存知の
公職選挙法で制限されています。


▼公職選挙法 第九条第一項
(選挙権)
第九条  日本国民で年齢満二十年以上の者は、
衆議院議員及び参議院議員の選挙権を有する。


ここで、20歳以上の国民に
選挙権が与えられているのが分かります。
そして・・・


▼公職選挙法 第十一条第一項第一号
(選挙権及び被選挙権を有しない者)
第十一条  次に掲げる者は、選挙権及び被選挙権を有しない。
一  成年被後見人


しかし、成年被後見人に
その権利は与えないと言うことです。
言い換えると、判断能力を欠く者に
選挙権は与えないということ。
他には、禁固刑を執行中の人などがこれに該当します。



■憲法の規定は?

憲法の規定は以下の通り。


▼日本国憲法 第十五条第一項及び第三項
第十五条
1 公務員を選定し、及びこれを罷免することは、
国民固有の権利である。
3 公務員の選挙については、
成年者による普通選挙を保障する。


ここで言う公務員は、議員の事だと考えて下さい。
ただ、憲法と言うのは、極端に条文が少ないので、
言外の解釈が重要になってきます。
反社会的な事をした国民にまで
無条件にこの権利を与えると言う話ではありません。
憲法制定の趣旨から考えて
妥当に運用する必要があります。



■行為能力と意思能力

行為能力とは、
その取引が自己の利益とかんがみて
妥当かどうかを判断し、
法的な効力が発生する行為をする能力です。
先ほど、判断能力と表現したものが
ほぼこれに該当します。


一方、意思能力とは?


これは、損得ではなく自分はどうしたいかを
自分で決める能力です。
行為能力より根源的な能力と言って良いでしょう。

行為能力は未成年には認められていませんが、
意思能力は認められています。


それでは、選挙をする際に
最低限必要な能力とは?


これは、明らかに意思能力です。
難解な政策の策定や判断は選ばれる側がします。
選ぶ側はその政策や政治家自身への信頼などの
意思表示をすれば良いわけです。



■被後見人から選挙権を奪うことの妥当性

そうすると、判断能力を欠く被後見人から
選挙権を一律に奪うことが妥当かどうかが疑問視されます。
勿論、被後見人の中には意思能力を欠く方も
少なからずいらっしゃるかもしれません。
なので、被後見人の選挙権を制限する事の
合理性も理解できます。


しかし、被後見人全てから
一律に選挙権を奪っても良いものなのか?


憲法で規定されている権利をはく奪するほど
合理性の高いものかと言うと、
疑問が湧いてきます。

これが「禁固刑を執行中の者」であれば、
反社会的な事をしたのだから
刑の執行中くらいは選挙権をはく奪されることの
合理性は充分説明出来るでしょう。

しかし、被後見人は
なんら反社会的な行為はしていないのです。
人権侵害と言えるのではないでしょうか?

今後の動向に注目しましょう。



学びの冒険者 原口直敏