「コクリコツアーズ」とはジブリの名プロデューサー鈴木敏夫さんが発案した。映画「コクリコ坂から」のプロモーションとして、主題歌を担当した手嶌葵さんが全国を隈なく歌って回る。ショッピングモールや映画館で歌い、各地のメディアの取材を受ける。
鈴木さんはおそらくは冗談半分でそれを「ドサ回り」と呼んでいた。
確かにそれは、ひと昔前の昭和の時代のドサ回り「キャンペーン」そのものだったと言ってもいいかもしれない。一見、多少洗練されてはいるが、不特定多数の観客の前で歌を歌いCDを即売するのだ。内実は変わらない。
当初はジブリの社員のある程度ギターが弾ける方がギタリストとしてついて回るという案もあったようだが、そこに葵さんの担当ディレクターの旧知のJが僕のことを思い出した。ある程度ギターが弾けて報酬が安くてスケジュールが半年丸々空いている男。そんな奴、なかなかいない。
葵さんは、これらのことを心中どのように感じていたのだろう。
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2011年6月4日に「コクリコツアーズ」は小樽にて無事初日を終え、そのまま青森へ移動。
大荒れの天候の中の飛行。ガッタンガッタン揺れた。バッタンバッタン揺れた。強い雨が窓を打ちつけ、僕は生きた心地がしなかった。
飛行機とはこんなに揺れても大丈夫なのだ!
僕は真っ青な顔をして、座席で震えるようにしていた。葵さんは少し前の席でマネージャーのみーちゃんと何事もないかのように談笑していた。
そして、このツアーで僕はかねてからの大の飛行機嫌いを克服することになる。
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翌日は青森と弘前のふた回し公演。
ショッピングモールの一角に機材をセッティング。無料で観覧でき、手嶌葵さんのステージを無料で観ることが出来る。しかも終演後はCDの即売会があり本人から直接サイン色紙をもらえるとあって会場は超満員。
一曲目が終わった後に、僕の機材がトラブルを起こし音が出なくなってしまった。
僕は焦った。かなり焦った。ギターの音が出なければライブはアウト、である。
ふと、僕の右斜め前の葵さんを見る。異変に気がついた様子。すると彼女は、そのまま静かに、何事もなかったように、観客に語りかけ始めた。とても流暢に。映画「コクリコ坂から」のこと、このツアーへの想い、などを。よどみなく。
普段の彼女は決して饒舌ではない。しかしこの場面での咄嗟の対応は本当に見事なものだった。時間にして10分くらいだろうか。まるでそのパートは最初から彼女のトークのコーナーとして設定してあったかのように観客は感じただろう。
もし、葵さんがこのトラブルに動揺し、僕の方を振り返ったり気にするような素振りを見せていたら、観客の視線も僕に向きライブ自体の流れが止まってしまうところだっただろう。そうでなくても始まったばかりのツアーでいきなりの音響トラブルに僕は気が動転していた。
僕は彼女が話してくれている間に、落ち着いてトラブルの原因を突き止めることが出来た。じっくり確認すれば単純なことだ。接点に問題があると突き止めた僕はプリアンプを外し、ダイレクトボックスに直でケーブルを挿し、恐る恐るギターのボリュームをあげた。音が出た。ふう。危ないところだった。
その間、彼女は一度も僕の方を振り返らなかった。ちらりとも。僕の方を見てしまうと、観客に「何か」が起こったことが露見してしまうからだ。
これがプロフェッショナルか、と僕は感服した。手嶌葵という真のプロの歌手の凄みを見た。
トラブルは解決した。僕は彼女の背中に向かって小さな声で「葵ちゃん、ありがとう。大丈夫です」と声をかけた。すると、ベテランのパイロットが静かに機体を着陸させるように、一連の話を見事に終え、彼女は優しい声で曲紹介をした。
「それでは聴いてください『朝ごはんの歌』」
いつも読んで頂いてありがとうございます。
成瀬英樹
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2019年6月29日(土)
成瀬英樹 レコ発記念スペシャルジョイントライブ
"The Acoguist" 吉川忠英さんをお迎えして
場所 下北沢 風知空知
出演 成瀬英樹 スペシャルゲスト 吉川忠英
開場17時00分/開演17時30分
予約 3,000円/当日 3,500円(共に+1drink)
風知空知メール予約(先着受信順整理番号付き)
予約受付開始:4月1日(月)18時~
●メール予約:風知空知 yoyaku@fu-chi-ku-chi.jp
(ご希望公演名、お名前、枚数、電話番号をご明記ください)
成瀬英樹、新しい作品集「HIdeki Naruse with Friends」発売記念として
アコースティックギターのレジェンド中のレジェンド
吉川忠英さんをゲストにお迎えしての一夜です。
吉川忠英さんは僕の憧れの
アコーステックギターの名手中の名手。
そして、シンガーソングライターとして現在も
日本中を旅して歌って回っていらっしゃいます。
参加された作品はまさに「枚挙に遑がない」のです!
むしろ、ヒット曲で忠英さんがアコギを弾いてらっしゃらない曲を
探す方が難しいとすら言えます。
僕が子供の頃から愛聴してきた
名曲の数々も忠英さんのアコギなんです。
忠英さんへの想いはブログに記しました。ぜひご覧ください。
https://ameblo.jp/naruse-hideki/entry-12449940558.html