雲の中。 第七章 宝物 5 | 一期一会

一期一会

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 古賀は警察に自首した後、全ての犯行を供述した。供述した内容を、手紙に書き留め、翌日、瑠実宛てに届けられた。

 手紙の内容は、古賀の独白だった。

 

『瑠実さんへ

 本当は、全部、会ってお詫びしなければなりません。ですが次回、会えるのがいつなのか。私がそれまで生きていられるかわからないので、全部、手紙に認めます』

という始まりで、長い、長い手紙だった。

 要約すると、次のようだ。

      *

 偽造計算書の主犯は、古賀であること。高橋を使い、建築確認申請の補正をさせたこと。警察も予想を超えた古賀の犯行に驚いていたが、自首してきた事実は、古賀には不利にはならないから心配してくれるな、と。

 両親のいない古賀は、幼少時代から、社会人になるまで施設で育った。子供のいない夫婦から、何度か養子縁組の話もあったらしいが、古賀は首を縦に振らなかった。

 ずっと同じ施設で成長し、優秀だった古賀は奨学金で大学を卒業した。卒業後は、独立して一人暮らしを始めたが、社会人なった後も、時々施設を訪れ、寄付も怠らなかった。

 だが、古賀が育った施設は、定期借家契約で、三十年後に立ち退かなければならなかったようだ。ちょうど今年が三十年後に当たる。施設の立ち退き問題が古賀の耳に入った頃、古賀は自分が肺ガンで、余命半年と知らされた後だった。

 古賀はあと半年で亡くなるのなら……と、計算書偽造を企てた。結婚もせず、子供も身寄りのない古賀は、お金を誰かに残す必要もない。貯めたお金は全部、立ち退きを迫られている施設の土地を買い取るために使うつもりだった。

 だが、古賀の全財産をはたいても、施設の土地を購入する資金には届かなかった。通常取引される土地の売買価格なら、手も届いただろう。ところが、土地の持ち主は、地元のヤクザ。法外な値段を言いつけられた。時間があれば、正当な値段で取引できるよう、法的手段で順当に購入できたかもしれない。だが、余命半年と言われた中で、まともに手続きをするのは、あまりにも時間が掛かりすぎる。

 古賀は苦渋の決断で、計算書偽造を思いついた。だが、実行すれば、隆司に迷惑が掛かる。隆司は親友であり、瑠実が自分の実子でないのを承知の上で、芳美と瑠実を引き取ってくれた親友だ。隆司に悪いと思う一方、復讐したい気持ちもあった。

 もし、隆司と芳美が離婚し、古賀と結婚していたなら、……もっと違う人生になったかもしれない。

 隆司は学生時代からの親友だった。だが、隆司は古賀が芳美を好きだと知っていて、芳美を手に入れた。隆司の父は香月建設の社長であり、次期社長も約束されていた。

 お金持ちの環境で、好きな女と結婚する。羨ましくないはずがない。けれど、芳美が隆司を好きで結婚したのなら……と、古賀は諦めていた。

 だが、一時期、芳美が隆司と不和になり、離婚するかもしれないと相談された時は、チャンスだと思った。次期社長は無理でも、芳美は取り戻せる。しばらくは芳美と幸せな時間を過ごせたが、人生とは、上手くいかないものだ。

 結局、芳美と隆司が縒りを戻し、その後、瑠実が生まれた。古賀は芳美が産んだ子供が自分の子だとも知らず、事実を知らされたのは、瑠実が五歳の誕生日の日だった。もしも、芳美が自分の子供を宿していたと知っていたら、死んでも隆司と縒りを戻させなかったのに。

 芳美に真実を聞かされた時、古賀は隆司に懇願した。芳美と瑠実を返してくれ、と。

 けれど、芳美が隆司の側を離れるのを望まなかった。隆司は芳美が身ごもった時、お腹の子供は、自分の子供でないのを承知で、芳美と縒りを戻したからだという。

 夫婦でしか、わからないこともある。

 家族だから、わかることがある。

 家族を持った経験のない古賀にとって、隆司と芳美が取った行動は、理解できなかった。

 それでも、瑠実は古賀の娘だと主張した。話し合いの末、瑠実が成人するまで本人には事実を隠す。代わりに古賀は、瑠実に会うことが許された。

 瑠実と芳美が幸せなら、それでいい。

 古賀は黙って、香月家を間近で見守り続けた。



to be cortinued……