翌朝、瑠実は、いつもより早く自宅を出た。職場のフロアに出向くと、すでに真野が出社してきていた。時計を見ると、まだ始業時間の一時間も前である。なんで、こんなに朝早いの? 見方によれば、仕事人間ともとれる。だが、逆読みすると、証拠の見張りとも考えられる。瑠実は真野に出し抜かれた気がして悔しかったが、笑顔を作り、挨拶をした。
「おはようございます」
「おはよう。今朝は早いっちゃね」
真野は夕べも瑠実より遅く残業をし、今日も早朝から仕事をしている。こんなに長く会社にいられると、真野の隙をつき、証拠を集めるのは、至難の業に思えた。それでも、ここで諦めるわけにはいかない。瑠実には、隆司を助けるため、証拠を探す必要があるのだから。
それに、永遠にバイトできるわけではない。瑠実が真野に連れられ、北九州に戻ってきたのは、ちょうど学年末休暇。いわゆる春休みに入ったばかりだった。実家で虎之助の遺産引き継ぎの件も、今は全て芳美に任せている。できることなら、薫がショートステイしている間に証拠を見つけ出すのが理想なのだ。少しでも早く、証拠を見つけたい。
それにしても真野は、いつ寝ているのだろう。連日遅くまで残業をし、早朝から仕事なんて、よほど仕事が好きなのだろうか。それとも、朝、早いのは今日だけだろうか?
真野が毎日、何時から出社しているのか気になり、掃除をする振りをして、瑠実は真野のタイムカードを盗み見た。
予測通り、真野のタイムカードは毎日、今朝と同じ時間帯にコードが押されてあった。特別、今朝だけが出社するのが早いわけではないようだ。
(もしかして、真野は仕事大好き人間? 同僚と呑みに行ったり、彼女とデートはしないのだろうか)
真野のプライベートには興味はないが、生活感を感じさせないところは、瑠実から見れば少し人間離れして見えた。真野は、ただの人付き合いの嫌いな人なのかもしれない。
瑠実はその後も、真野に関する観察を怠らなかった。電話がかかってくる客先や、真野が電話を掛ける相手も、わかる限りメモをした。幸い、真野は瑠実の後ろの席である。瑠実も耳はよいほうだ。仕事をしつつも、真野が電話をしている時は、耳は後ろの席に集中させ、内容も、できる限り聞いていた。真野に任される仕事がある時は、理解できる内容でも、さりげなく真野の席に寄り、質問をする。説明されている時は、真野の広げている資料や、パソコンの液晶画面の端にあるファイル名をチェックするなど、注意して覚えた。
だが、残念なことに、証拠のヒントになるものは、何も見つからなかった。段々自分でも焦るのがわかる。だが、注意深く真野を観察していても、叩いて出るような埃は残念ながら何も出なかった。瑠実の努力も、周りの女子社員には、端から見れば、真野に扱き使われていると思ったのかもしれない。真野が瑠実に仕事の指示をしている時には、わかっていても遠巻きに見ている空気を感じていた。
to be continued……