(……信用か)
信用していると言われて、瑠実は良心が痛んだ。ここには真犯人捜しに来たのだから。
瑠実の本当の目的を、真野が知ったら、どう思うだろう。真野は瑠実を信じているようだが、瑠実はまだ迷っていた。仕事に対して信頼はできるが、偽造計算書については信用ができない。証拠は見つからないし、まだ真野が怪しいという疑問も払拭できていない。
(とにかく、偽造計算書が見つかれば、はっきりする)
周りを見ると、いつの間にか同じ部署の人間は皆、退社し、瑠実一人になっていた。今がチャンスだ。再度、周りを確認すると、やはり誰もいなかった。心臓がどきどきする。
瑠実は胸が高鳴るのを鎮めながら、今のうちに。と、誰もいないのをいいことに、手当たり次第、デスクの抽斗の中身を全部すっかり見た。担当している物件のファイルに、辞書や建築基準法。その他の基準法の解説書がきっちりファイリングしてあり、必要箇所には沢山の附箋が付いていた。どれほど使い込んでいるのか一目でわかる。真面目に仕事をしている証拠だ。全部の中身を確認したが、特に証拠品となるものは見当たらなかった。全て綺麗に整頓してあったおかげで、短い時間で確認ができた。
次に瑠実は、開いたままの真野のパソコンをいじり始めた。ざっとファイル名に目を通し、問題の物件名のファイルを見付けると、急いで用意しておいたUSBメモリにデータをコピーする。早くしなければ見つかってしまうので、ファイルごとコピーをした。
よし。これでなんとかなるかも。
その時だった。デスクの電話が鳴り響いた。周りを見渡すが、もちろん誰もいない。電話に出たほうがいいのだろうか。考えている間に、留守番電話に切り替わった。案内メッセージが流れ、録音ガイダンスに切り替わる。中年の男の声でメッセージが聞こえてきた。
「えー、藤田鉄工所と申します。真野さんに用があって、お電話しました。先日お問い合わせのあった篠原ビルの鉄筋量ですが、やはり数量が合わんかったとです。なんでも、見積が訂正されちょりました。設計図の鉄筋量が、床面積一平方メートル当たり〇・一二トン、鉄骨量が〇・〇六トンだったのに対し、最初の見積書には床面積一平方メートル当たり〇・三六トン、鉄骨量が〇・一八トンになっちょった。なんと、設計図の三倍の量の鉄筋と鉄骨ですよ。これが後日に訂正されちょって、実際に納品したのは、設計図の鉄筋と鉄骨量の八割程度。ゆうちょきますけど、これは、ウチの間違いじゃないとですからね。また電話します」
ピーと録音終了の音声が鳴り響き、再び静かになった。
(……なに? これ)
どうやら抗議の電話らしいが、意味がよくわからない。録音された内容を瑠実は頭の中で反芻していた。確か、鉄筋量がどうとか。数量の変更がどうとか――。
もしかして、先程、真野に言われた数量チェックのことか? と、瑠実は思い当たり、急いでチェックされた一覧表を広げてみた。確かに、単価はそのままだが、数量だけが違っているようで、真野の訂正が入っている。これは、どういう意味だろう。
本当ならば、鉄筋量は構造計算書に基づき必要量が決定する。見積は必要量プラス、作業中に無駄になる損失量を加味し、全体の一割前後は多く鉄筋量を見積ことが普通だ。
それが、設計図の鉄筋と鉄骨の三倍の量が見積りしてあるとすると、間違いにしては大きすぎる。これは単に間違えたのか、それとも故意に数量を多く水増ししたのか。瑠実が思考を巡らしていると、静寂になったフロアに、ドアが開く音がした。慌てて差し込んだUSBメモリを抜き取り、自分の席に向き直った。
to be continued……