戦場のクリスマス 3 | 一期一会

一期一会

本も人の出会いも一期一会。時々読者、時々物書き。好きな本やコミック感想を中心に、日常のつれづれと共につぶやいていきます。




「サ……サト……サト……」
 はぁはぁと肩を大きく上下させて自分の名前を呼ぶ少年を、ミサトは放っておくなどできるはずもない。
「大丈夫ですか?」
 少年は右手の義手を体から外され、肩のすぐ下あたりから何もない右手をかばうように左手で逆向きのシーツをぎゅっと指が白くなるまで握りこんでいる。
ミサトは握り込んだ彼の手をシーツから外すと、代わりに自分の手を少年に握らせた。
「サ…サト……?」
「ええ、私がサトです」
「サト……なのか? よ……よかった……生きていたのか」
 はぁはぁと荒い息の合間に、少年は自分と別のアルフォンスと間違っているのか、焦点の合わない金色の瞳で天井を見つめている。
「私ですよ」
 嘘をつくつもりなどなかった。
 ただ……サトなのか? と聞かれてそう答えただけ。
 目の前の少年が求めているサトは自分ではない事だけは確認できたが、ミサトにはこの場で間違いだと正す事がとても躊躇われたし、とても罪な事に思えた。
 同情?
 そんなものはここでは不要だ。
 今は戦乱の世の中である。
 ボランティアでこの病院で助手をするようになってから、ミサトは同情がなんの役にもたたないと言う事は百も承知していた。けれど目の前の少年が自分とは違う《サト》を求めているのがわかっていても、嘘でもいいから今は彼を安心させてあげたかった。
 嘘でも自分が彼の言うサトだと名乗る事で、今の苦しいこの環境を彼が乗り越えられるのなら、彼のサトになれればいいと心から願わずにいられない。
「……私はここにいるよ」
 ミサトが名乗りながら自分の手を握らせると、少年は安心したのか薬が効き始めたのか、すぅと吸い込まれるように眠りに入っていった。
 少年は眠りについてもぎゅっと握りしめたミサトの手を離す事はなく、ミサトは少年の長い睫を見つめたまま、自分とまちがえているもう一人のサトと目の前のこの少年はどんな関係なのだろうと思いをはべらせていた。


to be  continued……