<ルーク・クリフォードside>
31
兄さんの寝ている部屋に閉じこもると、急にシンと静寂がもどる。
ボクはなんだかやるせなくて、ドアを背に、ずるりと床に座り込んだ。
ベッドを見やると、兄さんは微動だに一つせず、布団にまるまったまま出てこない。
この分だと、兄さんと今日話をするのは無理かもしれない。本当はたくさん兄さんと話したい事があったのに。
入院中、病院に尋ねてきた会社の上司の土屋サトシの話も。これからの兄さんの将来とボクの将来についても。
兄さんは一体、何を考えているのだろう。
今までボクはずっと兄さんの側にいたし、大概、兄さんの考えている事は理解してきたつもりだ。
なのに……最近の兄さんはわからない。
たった一つしか歳が違わなくても、これが社会人と学生の差なのだろうか。
じっくり考えると、今までボクは兄さんの弟だと自分では自覚してきたつもりだが、実際にはそう差は感じた事は
なかったかもしれない。
ケンカはボクの方が強かったし、体格だってボクの方が兄さんよりも頭一つ分ほどは高い。
勉強だって学年は違っていても、兄さんもボクもいつも優等生だったので、口では兄さんといいながら、実際に
は双子の兄弟ぐらいにしか思っていなかった。
特に兄さんとは兄弟でありながら『恋人』と呼ばれる関係になってからは、ボクがいつも兄さんを抱いていたか
ら、余計に兄と弟の差というのは感じたことがなかった。
けれど、こうしていろんな問題に直面すると、自分の人間としての大きさがはばかれて、嫌でも自己嫌悪に陥っ
てしまう。それに加えて、今日の兄さんとルカさんのキスシーン。
ルカさんだってボクと兄さんの関係を知っているはずだ。ボク達の仲に入るつもりがないのなら、もうボクと兄さ
んには関わらないで欲しい。それが今のボクの本音だった。
今更だけれど、やはり3人でここで暮らすのは問題があったのかもしれない。
いっそのこと、兄さんに渡米行きの話を勧めてボクもそれについていこうか? でも大学はどうする?
しばらく休学するか、向こうに留学するか。でも、休学や留学をすると卒業まで時間がかかりそうだし、第一、兄さ
んに今以上、金銭的な負担をかけたくない。バイトをしてもよいけれど、工学部の研究と先日引き受けた先輩の
サークル活動をこなしながらバイトというのはかなり時間的にも体力的にもハードだ。
ボクの頭の中は、ぐちゃぐちゃだった。
考えがまとまらないまま、再び兄さんとルカさんのキスシーンが頭の中をよぎる。何かわけがあったとしても、悔
しくて仕方がない。
ボクは衝動的に兄さんを自分のものだと確かめたくて、ベッドに近づき布団をめくった。
兄さんは布団をめくったのにも気がつかず、先程飲んだ薬のせいかうとうととしていた。ボクは背を向けて静かに
寝ている兄さんの上に四つん這いになると、そのまま自分の唇を兄さんの唇に押しつけた。
to be continued……