ルーク・クリフォード side
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『本日は新幹線をご利用頂きまして誠にありがとうございます。当新幹線は終着駅東京を目指して向かっておりますが、あいにくの悪天候の為、しばらく運行を見合わせております。尚、他のダイヤの影響もあり、この先の運行は未定でございます。先を急がれる中大変恐縮ではありますが……』
「ええええーーーっ!」
ボクは放送のアナウンスを聞いて非難の声を上げた。
今までがやがやと賑やかだった車中も放送が始まったかと思うと静かになり、放送が全部終わらないうちに周りの人たちはボクと同じように一斉に声を上げた。
大学院の合格通知が届いたのを理由に、ボクは少しでも早く兄さんと会いたかった。
本当なら三日後だった出発を、勝手に今日に早めたのはボクだけれど……。
兄さんに逢えると思う逸る気持ちを抑えられなくて、気がついたら新幹線の切符を買っていた。なのに結果がこれでは、泣きたくなってくる。
「……ったく!!」
つい、僕は毒づいた。
もうすぐ兄さんに会えるというのに。まったく今日はついていない。
ひどく悔しがっているボクの様子に、隣の青年が声を掛けた。
「どうしたの?」
なんだかちょっと変な感じだ。自分と同じ顔で心配されると、妙な気分になる。ボクは少し顔を背けてなるべくそっけなく答えた。
「せっかく……もうすぐ会えると思ってたのに」
「もしかして恋人に会うの?」
青年は、興味津々に尋ねてきた。恋人が実の兄さんというのは、絶対の秘密だ。ボクはどう答えてよいのか思案を巡らしながら、言葉を濁した。
「えっと、まあ……そだね」
「えーいいなぁ」
「君はいないの?」
「僕?……残念ながらいませんね」
青年は、大きなため息と共に、背中を深く座椅子にもたれかかった。
「そうなの? モテそうだけどな……」
自分そっくりの人が、モテないと嘆くのも、変な感じだ。客観的に見れば、外見は悪くないというのに。もしかしたら、彼はもの凄く性格が悪いとか――。
ボクは、青年の顔を覗き込みながら想像していると、なんだか興味が湧いてきた。青年もボクと同じ気持ちだったらしい。おずおずとだが、相変わらず流暢な日本語で尋ねてきた。
「名前、聞いてもいいですか?」
「ええ。いいですよ。ボクの名前はルーク・クリフォード」
その時だった。
「えーコーヒーにジュース、サンドウィンチにお弁当はいかがですか~」
ボクが名前を告げると、ちょうど車内販売のお姉さんがワゴンを押しながら通路を通りかかった。
「すいません。ビール!」
二つの声が同時に重なった。
ぷっ……ぷっ…
くっ…くっ……
気がついたら同時に同じモノを注文していた。どちらともなく顔を見合わせ、思わず噴き出した。
さっそく車内販売のお姉さんからビールを2本購入し、1本を隣の青年に手渡すと、青年は嬉しそうに受け取った。
「せっかくだから乾杯する?」
ボクが提案すると、青年もプルタブを開けて同意した。
「そうですね……でも何に乾杯?」
青年はしばし目を宙に彷徨わせたと思ったら、何かを思いついたらしい。よく通る声で「ルークの幸せに乾杯!」と、急に缶ビールを持ちあげた。
「ルーク……?」
「ああ、まだ僕名前言ってませんでしたね。僕も貴方と同じル-クなんです。ルーク・シュヴァルツ」
「ホント?」
「ええ」
まさか見た目の似たような容姿なのに、名前も同じだなんて。
ボクは目の前の青年が同じ名前と聞いて、一気に親近感が湧いた。
「じゃあ二人のルークの出会いを祝して、乾杯!」
コツンと、ボクもルークの缶ビールに軽くぶつけて乾杯をする。
これがボク達の初めての出会いだった。
to be continued……