ピアノマン
エピローグ
コンクールから一ヶ月が過ぎた。右腕に大やけどを負ったオスカーも、少々腕に跡が残ったが、ようやく包帯が取れた。
二次試験の結果から、最終選考に残ったのは、フランツとアルフォンス、他の学生の三名だった。翌日、最終選考の演奏が行われ、優勝したのはアルフォンスだった。
オスカーとの約束を果たせ、お互い兄弟だとわかって喜びはひとしおだったが、それを喜ぶ暇もなく、今は半年後の国際ピアノコンクールめざして、ルイズ教官の元で猛特訓中だ。
オスカーは特別なはからいで、学園内コンクールの特別審査賞をもらった。 アルフォンスがオスカーには内緒で、ルイズ教官とマーロウ教官にコンクール出場とは別枠でかまわないからオスカーに演奏する機会を与えて欲しいとお願いはしたのだが、まさか特別審査賞までもらえるとは思っていなかった。
オスカーも、最初は「特別審査賞なんてもらえない」と尻込みしていたが、審査賞の件は、アルフォンスがお願いしたわけではないと知ると、授賞式には素直に出席していた。
オスカーは、残念ながら今回のコンクールには正式に出場できなかったけれど、来年に向けてと、あれ以来、作曲と編曲の楽しさにも目覚めたらしい。 将来は演奏者よりも、作曲家の道を進みたいと作曲科のマーロウ教官の元で勉強を続けている。
フランツの姿は、あのコンクール以来、見ていない。
どうやら学園を退学になったらしい。アルフォンスがルイズ教官とマーロウ教官に働きかけ、彼と故意にしていた教官も、フランツの父からの不当な賄賂が表向きになり辞職した。
アルフォンスがオスカーに「何かフランツに言ってやりたい事とかなかったの?」と尋ねると、オスカーは「アイツも大学四年生になって最後のコンクールで失敗し、退学にまでなった痛手はおおきいだろ? 話もする価値はないヤツさ」と大人な返事が返ってきた。
学生時代は親の金の力でなんとかなったとしても、社会に出てみれば才能のないヤツは、いつかは潰れる。きっとフランツも自分の才能の限界はわかっていたのだろう。ある意味、可哀想なヤツなのかもしれない。
その後オスカーは、マーロウ教官の家を出て、兄弟仲良くアルフォンスのアパートで下宿している。
オスカーとアルフォンスは、本当の兄弟になった。名前も「オスカー」から「兄さん」と呼んでいる。ケンカした時は「オスカー」と呼び捨てにするが、それはそれで仕方がないだろう。
時々兄弟げんかもするけれど、今までけんかする相手がいなかったことを考えれば、兄弟けんかも楽しいものだ。だって最後はかならず仲直りし、今まで以上に仲良くなれるのだから。
週末は、母の待つ田舎へ一緒に戻ろうと話しているところだ。
いつか将来は母親を呼び寄せてみんなで暮らす。それがオスカーとアルフォンスの目下の目標だ。
「ねえ、兄さん」
「なんだ? アルフォンス」
「あの曲、弾いてくれる?」
「おう」
アルフォンスは兄さんと呼べる家族ができたことが、何よりも嬉しい。オスカーの弾くピアノの音色を聴きながら、幸せを感じるのだった。
end