第五章
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立ち上がったお客達もやがて落ち着きを取り戻し、静かにその場に座った頃、司会者がマイクを握って舞台に出てきた。
「プログラムに載っている演奏者はこれで終わりましたが、最後に、もう一人演奏する学生がいます。三十四番、オスカー・シューマン」
名前を呼ばれたオスカーは驚きの顔でいたが、横にいたルイズ教官が「無理はせんでいい。今のお前のできる限りの演奏をして来い」と、舞台に送り出した。
オスカーの右腕には、まだ包帯が巻かれていた。けれど、コンクール用の練習とまではいかないが、内緒でピアノ練習をしていたので、演奏する事自体は可能だ。ルイズ教官は、オスカーの性格を熟知していたのだろう。
オスカーは覚悟を決め、舞台に向かい、ピアノの前でお辞儀をするとやがてゆっくり弾き始めた。
それは皆、知らない曲だった。
ゆっくりとしたテンポ。
ユニゾンで始まった主旋律は、やがて高音部と低音部のメロディに分かれる。それはさざ波にも、草原にふく風のようにも聞こえ、聴いている者達を魅了する。コーダはどこか懐かしく心地よいメロディが繰り返され、耳に残った。
やがてオスカーが弾き終わると、アルフォンスの時よりも、さらに盛大な拍手が送られた。
「……この曲だ」
「どうした? アルフォンス」
「ボクはこの曲を知っている」
「ルイズ教官、この曲は誰の作曲なんですか?」
「作曲はオスカーじゃないのか? 時々、この曲を練習の合間に弾いていたぞ」
「……そんなはずは」
アルフォンスは耳を疑った。
この曲はアルフォンスが子供の頃から、母が子守歌代わりに歌ってくれた曲だ。確か初めてこの学園に来たとき、誰かがピアノを弾いていた。今思えば、きっとあれはオスカーだったのだろう。
舞台の上で照れくさそうに笑うオスカーを、信じられない顔でアルフォンスは見ていた。
すべての演奏が終わると、審査結果が出るまでしばらく休憩が入った。
アルフォンスとルイズ教官は、舞台にいたオスカーと誘い合い、ホールの外に出た。
to be continued……