第四章
1
「アルフォンス、ぼやっとするな」
アルフォンスがぼんやりピアノの前でしていると、ルイズから喝が飛んできた。
「すいません」
ピアノの演奏中に、ルイズの悲しげな顔がちらつく。ルイズに演奏を止められたのは、当然だった。
「またオスカーの事を考えていたのか?」
「……はい。やっぱり今回のコンクールには間に合わないんでしょうか」
わかっていても、気になるのは、コンクールの件だ。あんなに一緒に頑張ってきたのにと思うと、やりきれない。
「そうだな。少なくとも入院している間はピアノを触れないだろうし、退院してもリハビリしながらになるだろうからな。残念ながら難しいだろう」
予測はしていたものの、ルイズにはっきり言われると、アルフォンスは余計に気が滅入った。
次に考えるのはなぜあの時に。という自分への罵倒と、このまま自分だけコンクールに出てよいものか考えてしまう。
「気持はわかるが、考えても仕方がないだろう。お前までコンクールに出ないとは言わせないぞ」
はっとして顔を向けると、真剣な目をしたルイズと目があった。今はアルフォンスの思考を先読みして言葉をかけてくれるルイズの存在が嬉しかった。
「お前まで出ないと言ったら、オスカーが悲しむぞ」
ルイズ言葉を聞いて、はっとする。アルフォンスは、涙を浮かべた。
泣くつもりなどなかったのに、今、オスカーの件をを言われたら涙が勝手にあふれてくる。止めようとするのに、勝手に涙が出てきて困った。
「夜もろくに寝れていないんだろう?」
珍しく優しい。
いつもは鬼教官と言われているのに、優しい言葉をかけてくれるルイズの態度に驚いた。
ルイズは立ち上がると、ピアノ椅子に腰掛けたままのアルフォンスを優しく抱きしめた。
頭をゆっくりとなでられると、まるで田舎の母にそうされているみたいで、余計に涙があふれてきた。
「……す、すいません」
泣いてしわがれた声でそういうと、「無理せんでいい。オスカーもお前も、ピアノが上手くて飛び級で大学生になったと言っても、まだまだ子供だ。あんまり無理するな」とルイズに軽く頭をなでながら諭された。
正直、ありがたかった。田舎から上京してきて、気を抜く暇などなかった。大学でも、家での生活でも常に気を張りつめていて、あまつさえ誰かに甘える事など出来なかった。
「泣き終わったら、ビシビシしごくぞ」
アルフォンスは黙ってうんうんと、頭だけ振った。
泣きながらオスカーにも、こうして甘えさせてくれる人。頼れる大人ががいればいいのに。と思った。
to be continued……