Chapter6:帰還
2
ミキは少し遅れて戦闘機に乗り込んだ。
ヘルメットをかぶり、シートベルトをしながら司令室のミュンホの無線を聞く。
「敵はセントラル市街から北へおよそ二十キロの位置。現在数は五機確認済み。準備できたパイトットから順に、発進しろ!」
「ラジャー!」
複数の仲間の返答が聞こえる。
四本ある滑走路を全て使い、緊急発進した。
*
上空に向かっていると、ミュンホ長官がミキに個別の通信が入った。
「ミキ、夕べは夜間飛行の訓練をしたそうだな」
そうだった。
本当であれば、ミュンホの許可がなければ、たとえエースパイロットでも勝手な飛行訓練は許されない。
無断で飛行訓練をしたことを、上官であるミュンホに報告しなければならなかったのだが、夕べの情事と、今朝の緊急発進の件で、報告はまだしていなかった。
一瞬、夕べの淫らな行為を思い出し、心臓を高鳴らせながらも、ミキは心の中で小さく毒づいた。
言い訳をあれこれ考えるけれど、どれも釈然としない。勝手に飛行訓練を実行したのは自分だし、すでにそれがミュンホの耳にも入っている以上、ミキは詫びるしかなかった。
「悪りぃ。報告しようとしたんだが、今朝のこれで、遅れた」
「まあいい。アドからミサイルが装着した件は聞いた。それに関してもテストが必要だったとも」
よかった。
どうやらアドルフが上手く説明してくれたようだった。
「だがな。ミサイルが積んであると思っても、無茶はするなよ。私もこれ必要以上、誰かを失いたくはないからな」
ミュンホ長官の言葉がずしりと心に響く。
『大事な誰かを失いたくない』
戦いを続ける以上、結果として誰かが犠牲になる事は不本意な事かもしれないが、ミュンホの言う意味が、今のミキならよく判る気がした。
残された人の悲しみも。
逝ってしまった人の無念さも。
人は生きているからこそ、想いは伝わるのだから。
「絶対、僕の元へ戻ってきてくださいよ」
アドルフともそう約束した。
ミキは心の中で、その言葉を反芻する。
「ああ、判ってる。今のオレは、オレの命を心配してくれる人がいるからな。絶対戻ってくる」
「ほう……それはよかったな。くれぐれも、お高い戦闘機を壊すなよ。健闘を祈る!」
そこでミュンホ長官との通信は切れた。
まったく……どこまでもイヤミなヤツだ。
けれど、今のミキは、それさえも「生きて還ってこい!」とミュンホからの伝言のような気がして、気分は悪くなかった。
*
雲の上あがると、空は快晴だった。雲一つない天気で、すぐにミキの一行は、セントラル上空に到着した。
「ここから二十キロ北へ北上する。皆、戦闘態勢を取り、敵の位置を目視で確認できるまで近づいたら、要観察しろ!」
ミキのチームの先頭を飛び、他のパイロットにそう指示すると、それぞれに「了解!」と一斉に返事が返ってくる。
これは今までにない事だった。
もしかしたら、先日の件で自分を見る目が違ってきたのかもしれない。
今までミキは、他のパイロットから遠巻きにみられていて、訓練中もつまはじきされていたのが、やっと仲間として認識されたような気がして、嬉しく感じる。
ミキは喜びを感じると同時に、自分がこのチームの『エースパイロット』なのだと自覚し、自分ももちろん、チームパイロットを誰一人として失ってはならないという使命感で胸がいっぱいになった。
二時間後。
ミキのチームは見事に惨事を免れ、敵を全滅させると、誰一人として味方のパイロットを失う事なく無事帰還した。
to be continued……