約束 Chapter6:帰還 1 | 一期一会

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本も人の出会いも一期一会。時々読者、時々物書き。好きな本やコミック感想を中心に、日常のつれづれと共につぶやいていきます。

 

Chapter6:帰還 


   1

「緊急命令!緊急命令!」

「全員、戦闘配備につけ!」

「パイロットは至急、戦闘機発進の準備をしろ!」


 アドルフは、館内の緊急放送で目が覚めた。

 裸のまま、ミキのベッドの中での事だ。

 あれからミキ部屋に二人で戻ると、シャワーを浴びて、ただ何もせずに抱き合って眠った。お互いの身体をいとおしむような睡眠は、まるで夢をみているようで、とても気持ちがよかった。

「ミキさん、起きてください」

 寝ている時のミキの顔は、なんて無邪気なのだろう。訓練の時はもちろん、普段から隙を見せないミキの行動を知っていると、目の前の姿が信じられない気がする。本当なら、もっとこの姿を眺めていたいところだけれど、戦闘機発進の伝令を聞いたからには、無視するわけにはいかないだろう。

 アドルフは意を決して、無邪気な寝顔のまま自分の腕の中で眠るミキを揺り動かした。

「……んん…」

 まだ半分寝ているミキをなんとか起こそうとするが、ミキは死んだように眠っていて、一向に起きてくれなそうだ。

「緊急命令だそうです。パイロットは招集かかっていますよ」

 それでも、耳元で緊急だとか、命令の言葉を囁くと、身についているパイロット魂が目覚めるのか、ようやくミキは反応した。

「――え?」

 まだ虚ろな顔だが「緊急事態」という言葉で事態を把握したミキは、裸のまま飛び起きた。

 露わになったミキの白い素肌が眩しくて、アドルフは慌てて顔を背ける。

 ミキは目の前のアドルフ気づいて顔を赤らめながらも、慌てて下着とパイロットスーツを身につけ始めた。

「あ、あの……ミキさん。着替えながらでいいので、聞いてください。夕べの事なんですが――」

 そこまで言うと、さすがのミキもアドルフが何を言おうとしているのかわかり、動揺しながら答えた。

「あ、あれはだな……その……。なあ、なんと言うか…。つまりは友達同士のコミュニケーションという事で。ちょっとハメをハズしすぎたと言うか……」

 無理矢理、そう理由付けしようとしたが、二人の間になんとなくぎこちない空気が漂う。

「友達。つまり親友だから……ですか?」

 恐る恐るアドルフが口を開いた。

「おう、そうだな……」

 なんとなく相槌を打つミキだが、恥ずかしいのか、アドルフの顔を見る事はできなかった。

 ミキの態度からすると、意識しているのはわかる。もしかしたら偶然だとか思われているのかもしれないが、アドルフはできる事なら、夕べの事は無かった事にはしたくないと思う。

「僕は、ミキさんと『親友』だけの存在にはなりたくないです」

「え?」

 ミキは、仕度の手を止めて、まだベッドの上で伏せ目がちに言葉を綴るアドルフに目を見やった。

「僕は欲張りだから。夕べ……僕はとても幸せでした。ミキさんはどうだか知りませんが、その……できれば親友だけじゃなくて、貴方の……」

 そこまで言うと、再び緊急放送がかかる。

 急がないと。

 気持は焦るが、アドルフの言葉の続きも気になるようで、ミキは半分上の空だ。

 アドルフは、一旦言葉を止め、じっと目を閉じた。

「ミキさん、早く行ってください」

「でも……まだ何か言いたいんだろ?」

「ええ、言いたい事はたくさんあります。でも、それはミキさんが戻ってきてからでかまわないですから。その代わり、絶対、戻って来てくださいよ」

 アドルフはベッドから起きあがると、急いで洋服を身につけて仕度を始めた。

 ミキもアドルフが服を身に付けるのを見ると、続きの支度に集中する。

 仕度ができると、ミキはアドルフに向かって「行ってくる」と真顔になって報告すると、アドルフはその言葉を聞き、ミキを黙って抱きしめた。

 ミキにとって、今まで戦闘に行くのにわざわざ報告する人はいなかった。

 戦闘に出る時も、心のどこかでは、今度でこそ死ねるかなと考える自分がいた。

 でも、今は違う。

 少なくとも、戦闘には死ぬ為に行くのではない。

 此所で自分の還りを待っている人がいる。

 そう考えると、少しだけ勇気がわいてくる。

「絶対、僕の元へ戻ってきてくださいよ!」

 ミキはその言葉をかみ締めて、一歩を踏み出した。




to be  continued……