第四章 5
「ヒカルさん……」
カヲルは冷たくなったヒカルの手に、自分の手を重ねた。
「ヒカルさん。迷惑だなんて……」
「この眼をカヲルあげる」
「ヒカルさん?」
「私はカヲルの事、弟だと思っていないよ。もし、私の目が見える事で、カヲルと弟を比べていると気にするのなら、私は一生目が見えなくてもいい。私の眼球をカヲル移植すれば、カヲルが見えるようになるんでしょう? カヲルが欲しいというのなら、私はなんだってやる。目だってなんだってくれてやる。私の目がみえなければ、私はカヲルの顔を見て、弟と比べる事もないでしょ?私にとって姿はどうでもいいの。瞳をとじていても、カヲルの姿はきっとかわらないよ。そんなの、瞳をとじて、心の瞳をあければいいだけだから」
「ヒカルさん……」
カヲルはその言葉を聞いて涙を流した。
この人は、ぼくの事を……。
そう考えたらカヲルは嬉しくて。
胸が熱くて。
ヒカルの事が愛しくてたまらない。
これだけ自分の事を思ってくれるヒカルには、せめて自分の正直な気持ちを伝えたい。
ゆっくりとわかりやすいように。
ヒカルの表情はわからないけれど。一生、伝えるつもりはなかった言葉だ。
カヲルは自分の頬にあてたヒカルの手を取ると、手のひらに指文字を書いた。
「す」
「き」
「で」
「す」
自分は全盲をかかえる障害者で、ヒカルは健常者だ。
もちろん、ヒカルが自分の為に、目の移植を申し出てくるのはとても嬉しい。けれどその気持ちだけで十分だ。ヒカルの気持ちに報いたくて自分の気持ちを伝えてしまったけれど。カヲルは不思議に後悔はしていなかった。
これで二人の関係がうまくいかなくてもそれはそれで仕方がないし、自分はあと一年で施設を出て行くと言う都合もあったのかもしれない。
to be continued……