第四章 4
遠巻きに抱き合う二人を、通りすがりの人が怪訝そうに眉をひそめて通り過ぎる。
千秋は周りの状況は見えないから、そんな様子はわからないものの、目の見えるヒカルは、周りの状況が見えるからこそ、恥ずかしさで頭が一杯になった。
「………」
「ヒカルさん?」
「ああ……ごめん。ここは場所が悪い。人通りが多すぎる。私達は邪魔みたい」
ヒカルはカヲルの手を引くと、駅の外れのベンチまで連れていった。
「ここで少し待っていてくれない? ちょっと私一人でこの周りを見てくる。ついでに雅美さんにも連絡しないと」
「すいません。僕が黙って出てきたからですね」
「カヲルが心配する事はないよ。私だって黙って出てきたわけだから」
ヒカルがその場を立ち去ろうとすると、カヲルがヒカル手をとった。
「ヒカルさんは、僕が弟さんに似ているから探しにきてくれたのですか?」
「え?」
「ヒカルさんは……僕が邪魔?」
「カヲル……」
「はっきり言ってください。僕が足手まといだと」
「なんでそんな事をいうの?」
「僕は目が見えない。ヒカルさんが僕に優しいのは、仕事として介助してくれているのもだけれど、僕が弟さんに似ているからでしょう? 仕事に徹してだけヒカルさんは僕に接してください。そうすれば僕だってそれ以上……」
そう言いかけて黙りこむ。
カヲルはその先の言葉を継げなかった。継げる必要がないと判断したからだ。
続けたところで、ヒカルを困らせるだけだ。
現に今だって、自分を探しにここまで来てくれた。それでもう十分ではないか。
自分はヒカルに何を期待しているのだろう。
自分の気持ちをヒカルに伝えたところで、迷惑をかけるし、この先、障害者と介助者の立場が、うまくいくものかわからない。
カヲルはそう考えると辛くなって、顔を横に背けた。
「カヲル……こっちを見て」
ゆっくりとカヲルの手が、自分の頬を触る。
冷たい手だ。
すでに雨で体が冷え切っているのかもしれない。
「なんで……そんな事を言うの……? 私がカヲルの事を考えては迷惑?心配したらだめなの?」
「ヒカルさん……?」
「私がカヲルの事を思ったら……」
横を向けたカヲルの顔を、ヒカルはゆっくりと自分の顔の正面に向ける。
「……迷惑?」
ヒカルはカヲルの頬を両手で包む。
瞼に自分の唇を重ねた。
寒さで少し唇が震えている。
もしかしたら緊張して震えているのかもしれない。
ヒカルにキスをされた瞼がほんのり温かい。
カヲルは夢をみているようだった。
to be continued……