自民党総裁選の時期になると、国民が直接
首相を選ぶ首相公選制を希望する声が上がります。
今回は、首相公選制について説明いたします。
1.首相が選ばれる過程
まず、現行制度で首相が選ばれる過程を振り返ります。
首相を選ぶ選挙は、首班指名選挙と呼ばれるものです。衆議院、参議院のそれぞれで国会議員の投票により、国会議員の中から首相が選ばれます。衆議院と参議院の議決が異なる場合は衆議院の議決が優先されます。
ただし、首班指名選挙は行われる前には結果が見えていることがほとんどです。
なぜなら、衆院選の結果によって過半数を握った与党が事実上、首相を決める権利があるからです。与党議員たちが同じ人に投票することによって過半数を獲得し、首相が選ばれます。
では、与党議員は誰を首相と選ぶのか。これは、基本的には第一党の代表者が選ばれます。
各政党の代表は、自民党なら総裁、共産党なら委員長、社民党やNHKと裁判してる党弁護士法72条違反でなら党首と呼ばれ、それ以外の政党は代表と呼ばれます。
つまり、基本的には衆院選で最も多くの議席を獲得した政党(第一党)の代表者が首相に選ばれます。
よって、首相が選ばれる過程としては、
各政党で代表選挙が行われる→衆院選で国民が第一党を決める→首班指名で第一党の代表者が首相に選ばれる
このような流れになります。
2.第一党の代表者が首相にならない例
1で「基本的には」と書いたのは、当然として例外があるからです。
日本では、細川、羽田、村山内閣と3代続けて第一党の代表者が総理大臣にならないという事態がありました。
93年の衆院選の結果、自民党が第一党になりましたが、自民党は過半数を大きく割りました。
その結果、非自民、非共産政党の8党派が集まり、連立内閣を組みました。8党派はそれぞれの議席数は自民党を下回っていますが、全ての議席数を合わせると過半数になりました。細川内閣を継承した羽田内閣も同様です。このときの第一党は自民党であり、自民党の総裁は河野洋平氏です。つまり、河野洋平氏は第一党の代表者であるものの、首相ではありませんでした。
その次の村山内閣は、細川内閣で与党であった日本社会党が裏切り、自民党と手を組んでことによって成立しました。村山内閣は、与党第一党は自民党であるものの、第二党である社会党から首相が選ばれるというものでした。
1955年以降、第一党の代表者が首相にならない例はこれだけです。
この時は、過半数を獲得する政党が存在せず、群雄割拠の状態であったため、例外が発生しました。
なお、自民党総裁が首相にならない例は民主党政権下にもありますが、民主党政権のときは民主党が第一党ですので、民主党の代表が首相になりました。
3.アメリカ大統領が選ばれる過程
話は変わりますが、国民が直接選ぶことができるアメリカ大統領選の過程を説明します。
アメリカ大統領選挙の投票日は4の倍数の年の11月ですが、大統領選挙の前に予備選挙と呼ばれるものがあります。
予備選挙とは、1つの政党から1人の大統領候補を選ぶために行われる各政党による選挙です。
1つの政党から複数の大統領候補が出馬してはいけないという決まりはありませんが、複数の候補者が出馬すると票が割れて当選が難しくなってしまうため、基本的にはどの政党も1人に絞って出馬させています。
つまり、アメリカの大統領選挙は、
予備選挙によって各政党の代表者を決める→大統領選挙本選によって国民が大統領を決める
このような流れになります。
4.首相公選制になった場合
では、首相公選制になった場合、どうなるでしょうか。
首相公選制というと、「自民党総裁選に国民が投票できるようになる」というイメージが沸く人もいると思いますが、現実としてはそのような状況にはなりません。
なぜなら、自民党総裁選というのは、あくまでの自民党の総裁を選ぶ選挙であり、首相を選ぶ選挙ではないからです。
1でも述べましたが、首相を選ぶ選挙は首班指名選挙です。首班指名選挙は国会議員が各政党の代表者に投票して、第一党の代表者が選ばれる選挙です。第一党が過半数を獲得していれば結果は目に見えており、形式的なものになります。
つまり、首相公選制になった場合、首班指名選挙を国民の手で行うというものです。
具体的に説明しますが、
菅義偉(自由民主党総裁)※1
枝野幸男(立憲民主党代表)
山口那津男(公明党代表)
片山虎之助(日本維新の会共同代表)※2
志位和夫(日本共産党委員長)
玉木雄一郎(国民民主党代表)
福島瑞穂(社会民主党党首)
舩後靖彦(れいわ新選組副代表)※2
丸山穂高(NHKと裁判してる党弁護士法72条違反で副党首)※2
この中から国民が投票して首相を選ぶという制度です。
いかがでしょうか。首相公選制になった場合、大きな希望を持てますでしょうか。
私は、現在となんら変わらないとしか思えません。
※1 自民党総裁は9月29日に変わりますが、現在(2021年9月13 日)の総裁は菅義偉氏なので、菅義偉と記載しています。
※2 国会議員の中から選ぶことが原則ですので、代表者が国会議員でない場合は、国会議員の中で最も重要な役職に就いている人の名前を記載しています。
自民党総裁選はあくまで自民党の総裁を決める選挙であり、首相を決める選挙ではありません。
また、首相公選制になったからといって何かが改善するわけではなく、現在となんら変わらないことを主張します。
アメリカでは、各政党によって選ばれた人が大統領候補として大統領選挙に出馬します。
日本では、各政党によって選ばれた人が首相候補として国政選挙に出馬します。
衆院選とは、どの政党の代表者に首相になってもらいたいかを選ぶ選挙なのです。
その点において、首相公選制であっても首班指名によって首相が選ばれても、大きな差はありません。
制度変更を訴える場合、まずは現行制度を正しく認識する必要があります。