ケミカルピーリングの話① 歴史 | ひふみのへや ~narimasu-hifuka~皮膚科専門医の葛藤雑記帳〜

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皮膚科専門医(皮膚診=ひふみ)です。日々の診療で患者さんたちから学んだこと、主に「肌」・「皮膚」(ときどき「推し」)をテーマに綴ります。溢れる情報に溺れそうな時代ゆえ、信頼性の高いサイトも紹介します。
必要に応じ加筆/訂正することがあります。

ケミカルピーリングとは

 

化学薬品(酸)を皮膚の表面に塗り

皮膚(主に角質)を溶かす≒角質を剥がす

治療法です。

 

歴史を遡ると、古代エジプトの頃から

皮膚に何かを塗り

美容効果を期待する方法は数多あったらしく

 

現代の(真の意味での)ケミカルピーリングの礎は

第一次世界大戦の約30年前に1882年にドイツの皮膚科医P.D.Unnaが

記した「酸について文献」にまで遡るらしいのですが…

 

Unna先生は

皮膚科の教科書のヒーロー達(Hebra先生、Kaposi先生、Auspitz先生)

と同時代に同じ所で仕事をともにしていた(大御所たちの大所帯!!)先生です。

 

2020年に記された19世紀ヨーロッパ皮膚科界の

「ケミカルピーリングあけぼの」についての論文を少し覗いてみると…

 

年表風にします

1834年 化学者Friedlieb Ferdinand Runge先生が

    (フリードリーブ フェルディナンド ルンゲ)

    「フェノールって 皮膚を剥がしちゃうんだよ!」と記載

 

1860年 Hebra先生が 「ケミカルピーリングとしてフェノール使えるよ」と報告

 

 ? 年 Hebra先生+Kaposi先生が 「ロンドンではもう使っているらしいよ」と報告

 

1869年 Fox先生曰く「消毒薬としては使うけど、ケミカルピーリングとしては使わないよ」

  ★補足:フェノール自体は現在では希釈されて消毒用として使うことがほとんど。

       割と危険(劇薬指定)なのでピーリング剤としてはメジャーではないです。

1882年 Unna先生「サリチル酸でも 皮膚を剥がせるよ!」

1899年 Unna先生「19世紀のケミカルピーリング総括」

    Gutta-percha plaster(ピーリング剤)=サリチル酸とフェノールを配合したものや

1900 年頃にはレゾルシノールを使用したピーリング剤で有名になった!

・・・らしい。

 

噂によると第一次世界大戦中には、砲撃などで生じたやけどなどを

やっぱり(?)フェノールを使って治療していたとも。。物資不足のせいなのかそれとも…

 

さておき。

 

ケミカルピーリングとは

肌を剥がす(薬品で腐食させる)

→皮膚の一部が欠損

→欠損を補うために皮膚再生が促進

→肌の状態が良くなった

→美容面でも効果がありそうよね

という考えに基づいた治療法です。

 

現代はピーリング剤して様々な薬剤が使用されていますが

どの薬剤についても

・細胞毒性(皮膚に安全な濃度を厳守しなくてはならない!)

・蛋白凝固作用

により 細胞壊死、蛋白凝固融解が引き出されることは

程度の差はあるものの共通であり

それに続く

・炎症反応

・創傷治癒=新しい皮膚の再生を促進

(ついでにお肌のハリも復活

 

・・・以上のような過程を経て

美しい皮膚をひきだすことを期待できるのが

ケミカルピーリング 

です。

缶詰のみかん

薄皮をきれいに剥くために重曹にみかんをつけるのと

似たような原理です。

(みかんはピーリング後生きていませんけれど…美味しい)

 

最初に思いついた人、天才ですな!

 

 

参考文献

The rise of Chemical Peeling in 19th-century European Dermatology: emergence of agents, formulations and treatments  C Borelli , F.Ursin , F Steger  J Eur Acad Dermatol Venereol​​​​​​ 2020 Sep;34(9):1890-1899.

ケミカルピーリング 東京大学形成外科 吉村浩太郎 日本皮膚科学会誌 日本皮膚科学会生涯学習講座 2000年8月