韓国映画㊺The NET 網に囚われた男(그물) | なりあやの韓国シネマ留学記

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2017年、3度目の韓国留学。
ソウルの大学院で映画を勉強します!

日本で公開中のキム・ギドク(김기덕)監督の「The NET 網に囚われた男」(2016 原題:그물)、観てきました。

 

 

実は、よく考えると、キム・ギドク監督作を劇場で観たのは初めて。

どぎついのが多くて、スクリーンで観る勇気がなくて、いつもDVDでした。

でも、今作は前評判から、劇場でも大丈夫と思って。大丈夫でした。

 

どぎつさ封印。

主人公(リュ・スンボム、류승범)は、北朝鮮の漁師。

船の故障で、南側(韓国)に漂着してしまう。

 

と、ここで、思い出すことが。

 

2011年9月、脱北者の船が、能登半島沖に漂流という事件がありました。ほんとに小さな船に9人も乗っていて、本人たちは韓国に行くつもりだったと。

 

当時、富山総局員だったわたしは、たまたま休みで、のんびりとカフェでお茶をしてたんですが、会社から「とりあえず輪島港に行って」と電話。とりあえずナビに「輪島港」と入れると、とんでもない距離で、「簡単に言うよな~」と、ぶつくさ言いながら、一人車を走らせました。金沢を過ぎて15分くらい走った辺りで、「やっぱり金沢港」と言われ、引き返し。

 

でもね、金沢港に行ったところで、脱北者の乗ってる船(小さな船から海上保安庁の船に乗り換えた)は沖に停泊したままで、取材のしようがなかった。

東京本社からも、韓国留学経験のある先輩が金沢港に呼ばれていて、二人で無駄に韓国語でしゃべってました。やることないね、って。その先輩とは、後にセウォル号の現場(珍島)でも一緒になりました。

 

それにしても、あの小さな船に9人って、本当に命がけの脱北やな、と。

どんな事情か分からんけど、そんなに厳しい状況なんか……って思ったな、その時は。

 

そして、翌朝、どうも沖からそのまま上陸せずにヘリで移動するらしいという情報を得たわれわれ(カメラマンと、東京からの先輩とわたし)は、ななんと、漁船をチャーターして、沖の船に近づくことに。海上保安庁の人にスピーカーで「そこの船、離れなさい」とか注意されながら。そして、脱北者の姿は肉眼で見えるかどうかという距離なのに、会社からは「何でもいいから、韓国語で叫んで!」って指示されて……。こっちはスピーカーもないのに、聞こえるわけないやん。もう、むちゃくちゃでした。

 

そして、どっからヘリが飛んでくるのかと思ったら、船上の格納庫の扉がわーっと開いて、そこからヘリが。そういうのあんまり興味ないわたしでも、「おおおお」と声を上げてしまった。すごいな、ある意味超VIP待遇やな、と思った。

 

こっちは、着替えも持ってきてないし、日焼け対策もしてないから、汗臭いわ、真っ赤に焼けるわ。そして、その日はわたしの誕生日でした。何の役にも立たず、へとへとになって富山へ。

 

という、9年の新聞記者生活でも、有数の珍体験でした。

 

映画では、主人公は、故意に韓国に入ったわけではないので、北朝鮮の家族のもとに帰りたがる。

 

いつものキム・ギドク監督作とちょっと違うのは、実際にいそうな人が出てくる。

例えば、主人公の取り調べに当たる情報員の上司。

 

部下の拷問にまゆをひそめ、「こいつをスパイというのは、無理があるんじゃないか」と言う。

一方で、北朝鮮を独裁国家と言って、本人が帰りたがってるのに、韓国に亡命させようとする。いかにも、いそう。

 

そして、主人公の警護にあたる若者。

わたしの感覚では、こういうよき若者は日本でも韓国でも多い。

イデオロギーとか、正直、ピンとこない世代。

それよりも、「スパイとはとても思えない」とか「家族に会いたがってるんだから、帰してあげたらいい」というごくごく人間的な発想が出てくる。

 

原題は、「網」の意味。

一度、網にかかったら、逃れられない。

たとえ、何ら政治的思想のない、家族思いの善良な市民でも。

 

キム・ギドク監督作にしては、とても優しいタッチな気がしますが、それでも、ハッピーエンドにはしない。それが南北朝鮮の抱える現実だから。

 

なんとしても北朝鮮に帰ろうとした主人公でしたが、帰った北朝鮮での取り調べもまた、韓国での取り調べと似たようなもの。

 

誰も幸せにしない、ナショナリズム。