『進化論』 第7回 生命の起源 | 奈良の鹿たち

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『進化論』

第7回

生命の起源

 

生命誕生

現在、岩石に残された化石として残っている最も古い生物の遺骸は、およそ35億年前に生きていたと思われる原核生物であるシアノバクテリア(cyanobacteria)のものです。

(↑シアノバクテリア)

さらに、グリーンランドで38億年前の、海底に積もった組織を含んだ岩石の中で、生物由来の炭素を含んだ岩石が新たに発見されました。

これが生命の痕跡であるならば、生命誕生はそれ以前ということになります。

ところが、生命起源の問題をはっきりさせるためには、どこまでが非生命で、どのような状態が生命なのか? という問題、言い換えれば「生命とは何か?」が浮上してきます。

現在の地球上に生息するすべての生命は、炭素(C)、水素(H)、窒素(N)、酸素(O)、リン(P)、イオウ(S)で構成されています。(まとめて「クノープスCHNOPS元素」と呼ばれる)これらはいずれも、過去の超新星爆発で宇宙空間にバラまかれ、地球が出来る時に集まってきた星間ガスや微惑星に含まれていたものです。

 

地球上の生命の起源に関しては大別すると二つの考え方が存在します。

地球外説:宇宙空間の生命の種のようなものが地球に到来した結果、生命が誕生したという説

地球説:地球上での無機物質から化学進化の結果、生命が誕生したと考える説

 

地球外説

パンスペレミア説

1906年にスウェーデンのスヴァント・アレニウスは、“生命が宇宙から飛来した” という「パンスペルミア説(宇宙汎種説)を唱えました。

この考え方は、生命そのものが宇宙からもたらされたという説と、少なくとも生命の源となった化学物質は宇宙からもたらされたという説の二つに分けられます。

「宇宙空間には生命の種が広がっている」「最初の生命は宇宙からやってきた」というものであり、地球の生命の源は、宇宙にあった生命の元(微生物の芽胞、DNAの鎖状のパーツ、アミノ酸)が地球に到達し繁殖・発展したものである、とする説です。

ある種の隕石の中にアミノ酸が含まれていることが知られています。このことは、宇宙空間にはアミノ酸が多いことを意味しています。 わざわざ地球で有機分子を作らなくても良いではないかというのがパンスペルミア説の主軸です。火星で最初の生命は誕生し、その後、隕石に乗って地球にやってきたとする極端なパンスペルミア説も存在します。

当時の地球には隕石が大量に降り注いでいました。それらの多くには鉄や炭素が含まれていて、地球への衝突の際に炭素や窒素が還元されアミノ酸が合成されたとしています。

<実証研究成果>

●1969年に、オーストラリアのマーチソン地方に落下したマーチソン隕石(炭素質コンドライト)は、2019年11月19日に生命を構成するアミノ酸などの有機分子が初めて検出されたと発表されました。隕石の中でも炭素質隕石は太陽系の原始物質であり, 有機物を含んでいる。アミノ酸、炭化水素、核酸塩基などの有機化合物、脂質で包まれた細胞膜に似た泡が発見されました。

(↑マーチソン隕石)

誕生時の地球は高温であるので、アミノ酸が形成されにくい環境であったと考えられます。生命の源は、隕石によって地球外から運ばれてきたのであり、宇宙起源であることはマーチソン隕石の分析から判明しました。

●1996年に米航空宇宙局(NASA)が発表した南極で発見された火星起源の隕石「ALH84001」は、およそ1100万年前に落下したと推定され、炭酸塩鉱物と小さな虫のような構造が見つかりました。この微細構造は大昔のバクテリアの化石であると推測しました。「天体衝突によって岩石が惑星間を移動する可能性がある」とされるようになり、「大気圏突入の過熱や衝撃に微生物は耐えうる」とする論文などが発表され、岩石パンスペルミア説の可能性が明らかになりました。もしも本当なら、地球外生命の存在を示す証拠がついに見つかったことになります。この生命の痕跡論争は、どうやら火星からのサンプルが直接地球に送り届けられる日まで続くようです。

(↑火星起源の隕石のバクテリアの化石)

●1986年のヨーロッパ宇宙機関(ESA)のジオット彗星探査機のハレー彗星の探査でも,彗星の核に大量の有機物が発見されました。ダスト質量分析機による測定から、コマのダストにはさまざまな有機分子が存在することが判明しました。これらの有機物は、星間ダストの表面で紫外線や宇宙線が介在して生成されたと考えられています。ハレー彗星の氷成分には、水のほか炭素, メタン, アンモニアなどが含まれていることも分かりました。

●2008年~2015年、国際宇宙ステーション(ISS)の外で宇宙生物実験(EXPOSE)が実施され、多種多様な生体分子、微生物、およびそれらの胞子が約1.5年間、宇宙の太陽放射と真空にさらされました。いくつかの生物はかなりの長さの間、非活動状態で生き残り、模擬隕石物質に保護されたそれらのサンプルは、「岩石パンスペルミア」の可能性についての実験的証拠となっています。

●2018年4月、ロシアの研究チームは、バレンツ海とカラ海の沿岸部の表層微小層で以前に観察されたものと類似した陸生・海洋細菌のDNAを、国際宇宙ステーション(ISS)の外部から発見したことを明らかにしました。「ISSに野生の陸生・海洋の細菌のDNAが存在することは、成層圏から電離圏に移動する可能性を示唆している。ISSの細菌だけでなく、野生の陸生・海洋の細菌も、すべて究極の宇宙起源を持っている可能性がある」と結論づけています。

●2018年10月、ハーバード大学の天文学者は、物質と潜在的に休眠状態にある胞子が、銀河間の広大な距離を越えて交換されることを示唆する分析モデルを発表しました。「銀河パンスペルミア」と呼ばれるプロセスであり、太陽系の規模を遥かに超えるものです。

●2019年11月、東北大学の古川善博らは、隕石の中でリボースを含む糖分子を初めて検出したことを報告し、小惑星上の化学プロセスが生命にとって重要ないくつかの基本的で不可欠な生体材料を生成することができることを示唆しました。

●2022年、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の「はやぶさ2」が小惑星「リュウグウ」からサンプルとして持ち帰った砂を分析した結果、そこにアミノ酸が数十種類ほど含まれていることが見つかりました。今回、はやぶさ2のサンプルからアミノ酸が大量に見つかったことにより、宇宙にアミノ酸が存在することが実証されました。

(↑はやぶさ2のサンプルからアミノ酸)

 

地球説

「かつて地球上に生命が誕生するまでは地球上には有機物は存在しなかったはずなので、最初に生じたのは無機栄養微生物だったはずだ」と考えられていた時代がありました。

20世紀に入り、最初の生命の発生以前に有機物が蓄積していたはずだ、と考えられるようになりました。

(↑オパーリン)

これを最初に唱えたのはソ連のアレクサンドル・イヴァノヴィッチ・オパーリン(1894-1980)で、1922年に「無機物から有機物が蓄積され、有機物の反応によって生命が誕生した」「生物が進化するならば、その材料となる有機物などの“物質も進化する”はず」とする仮説を立てました。オパーリンは、初期地球の大気中の成分が有機分子になり、それが海洋に蓄えられ、やがて濃厚なスープを作ったと考えました。この濃厚なスープの中の有機分子は、やがて重合し細胞内に隔離されて最初の生命になったとする考えです。有機物の化学進化という考え方です。これを「化学進化説」と呼びます。「化学進化説」は最も理解が簡明かつ、基本的な生命発生のプロセスであり、現在の自然科学でも広く受け入れられています。

オパーリンの説は、生命の起源に対する化学的考察のさきがけとなりました。この化学進化説を基盤として、生命の起源に関する様々な考察や実験が20世紀に展開されることになります。なお、同説で論じられている初期の生命は有機物を取り込み代謝していることから、従属栄養生物であると考えられています。

深海の熱水鉱床で発生したとする説

オパーリンは,生命が有機物に富んだ原始海洋で発生したと考えました。しかし、海は広大であり、生命の誕生の場としてどんな場所が最適かをもう少し突き詰めて考える必要がありました。

生命誕生の場を明らかにするには、化学進化の進行しやすい場所を考えるのが、唯一の方法でした。1990年代になって、分子生物学的な研究から新しい視点が提示されました。

(↑生物の系統樹)

現在地球に生息するすべての「生物の系統樹」に表し、最も始源的な生物の性質を推定すれば、生命誕生の場について手掛かりが得られます。系統樹の根元近くには、高温環境に適応した細菌が位置し、根本に最も近い原核生物は、超好温性細菌が存在しました。地球の歴史の中で初期に出現した生物に近い生物ほど高温に適応しているということは、時代を遡るほど地球が高温だったということです。共通祖先に近い原核生物は、温度が60°以上の、温泉が吹き出す環境で見つかったものが多い。このことは、初期地球の生物が海底の熱水噴出系のような環境に生息していた証拠であるとされています。

 

地球最古級の生物の化石が、西オーストラリアのピルバラ地域で発見された約35億年前の岩石から発見されましたが、この岩石はオーストラリア北西部に分布するチャートという固い堆積岩であり、分析の結果、大西洋や太平洋の中央海嶺にある深海の海底に見られるものでした。しかもそのチャートの下層には枕状溶岩が存在していました。

これらのことから、①大洋の中央部の深海底 ②マグマの活動の盛んな場所であることに絞られました。それはプレートの湧き出し口に近い海底にある熱水鉱床でできたものでした。

(↑深海熱水鉱床)

熱水鉱床の熱水噴出孔からは、およそ350℃にも達する高温の海水が噴き出しています。同時に硫化水素やメタン、水素、姪、マンガンなどの化合物も、地下のマグマから大量に供給されています。そしてその付近には、酸素ではなく硫化水素を使ってエネルギーを獲得するバクテリア(嫌気性細菌)が生息しています。これら無機化合物の反応で、有機分子が生成されるとする説が提唱されました。そこで生成された有機分子がやがて最初の生命に発達したとするのが「海底熱水説」です。地球最初の生命は、陽光もとどかないような暗黒の深海で生まれたのかもしれません。

 

化学物質から生命に

バクテリアとヒト

(↑バクテリア)

現在の地球上で最も原始的な構造の生物は、原核生物で単細胞の細菌=バクテリア(bacteria)の仲間です。化学物質から生まれた最初の生命です。一方、ヒトは地球上で最も複雑な生物と考えられています。その他の生物は、ヒトとバクテリアの系統の間に存在していることになります。ヒトとバクテリアの相違点は、もちろんたくさんありますが、では共通点はというと、実はたくさんあります。例えば、両者とも身体を構成する元素は、炭素・水素・窒素・リン・イオウであること。体の大部分は水であること。自己複製の為の情報は、DNAという分子に託していることです。こうして考えてくると、ヒトとバクテリアは、基本構造は同じだということになります。基本となる部品も量や比率は別として種類は同じだし、つくられるプロセスも規模の違いはあれ基本的に同一だ、ということになります。

では、両者の違いを決定づけているのは何か?

それは仕様の違い、設計図の違いだということが出来ます。

つまり、40億年にわたる進化の歴史は、生命というシリーズの果てしなき仕様変更、設計図の修正の歴史であると言えます。生命の設計図はDNAが担っています。そのうえに様々な突然変異が発生し、遺伝情報がすこしずつゆがめられ、長い間にその歪みが蓄積していくのです。

こうして、生命は様々なバリエーションを生み出し、結果として地球上の生物は非常に大きな多様性を持つまでになりました。

 

化学物質から生命が生まれる

化学物質であるDNAの二重らせん構造(double helix)が判明して、それが生物の本質情報を担うことが分かった時、われわれ人類もその本質は、化学物質に過ぎないことが分かりました。

(↑DNA)

生物と化学物質という無生物との間に、はっきりとした線が引けなくなりました。

いま、研究者の最大の関心は、化学物質から生命が生まれるプロセスの分析です。つまり現在の進化研究は、生命の誕生を生物学的進化の前段階である科学的な進化のレベルに求めるようになってきたわけです。

<生命としての条件>

①外界とはっきりした境界によって区別されている事(独立性)

②周囲の環境との間で、物資や情報をやり取りする能力によって自己を維持すること(代謝)

③何らかの方法で世代の交代を行って子孫を増やす能力があること(自己複製)

生命という仕組みが誕生する時、上の3条件が同時にすべて揃う必要はありません。それぞれの機能を持つ仕組みが独立して発生し、これらが組み合わさることで生命が誕生したと考える方が自然かもしれません。

現在、生命の遺伝情報を担っているDNAは、実は最初の自己複製システムではないかと考えられています。細胞の核の内部では、DNA情報がRNAに転写され、それが読み取られることでタンパク質がつくられます。つまり遺伝情報の流れは、DNA⇒RNA⇒タンパク質と移行されます。

DNA、RNA、タンパク質の構成は、セントラルドグマ(下図)が全ての生物に当てはまります。1950年代から、化学進化後の最初の生命で、これら3つの物質のいずれが最初の存在となったのかが論じられてきました。そうした説の名称が「DNAワールド仮説」「RNAワールド仮説」「タンパク質ワールド仮説」です。

DNAワールド仮説

このDNAの変化こそが進化であり、もっとも初期の自己複製システムがDNAによるものであると考えられていました。セントラルドグマが生命誕生以来、原則的なものであれば、まず最初にDNAの設計図が存在していたと考えるべきですが、DNAワールド支持者は、RNAやプロテインワールドに比べて分が悪い。なぜならDNAは触媒能力を有しないとされていたからです。

RNAワールド仮説

生命進化の初期段階では、DNAが発達する以前、DNAと同じ構造を持つRNAが遺伝情報を伝える主役だったと考えられています。

生命には、DNAなど核酸のもつ遺伝情報(自己複製情報)と酵素(タンパク質)のもつ代謝機能が必要不可欠です。RNAはこの遺伝情報を持つだけでなく、中には自分自身を酵素のように利用してRNA自体を複製する能力を持っています。つまりRNAは独自に遺伝情報を再構築できるのです。また、RNAは、自分の遺伝情報からアミノ酸を造る一連の作業を単独で実行できた可能性があります。つまり自己複製と代謝の機能を持つRNAが存在したことになります。

RNAワールド仮説は、「初期の生命はRNAを基礎としており、後にDNAにとって替わられた」とするものです。

タンパク質ワールド仮説(GADV仮説)

さらに、RNA核酸よりも、酵素(タンパク質)がずっと簡単に生成されることから、核酸よりもタンパク質が先に出現し、タンパク質が遺伝情報を伝達した時期があったのではないかという説もあります。海底から噴出する硫化水素がアンモニアや炭酸と接することで、急激にさまざまなタンパク質に変わるという現象もあります。そして、タンパク質のアミノ酸配列に従って、次々と新しいアミノ酸を引き寄せて、それを並べて、自己複製をつくることも考えられます。

「タンパク質が、まず始めに存在し、その後タンパク質の有する情報がRNAおよびDNAに伝えられた」とする仮説です。

 

 

 

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次回は 第8回「生命の誕生~植物の上陸」

 

 

 (担当B) 

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