『おくのほそ道』 第30回 大石田・最上川 | 奈良の鹿たち

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『おくのほそ道』

第30回「大石田・最上川」

(おおいしだ・もがみがわ)

 

(五月雨をあつめて早し最上川)

(大石田 元禄二年五月二十六~二十八日)

 

第30回 「大石田(おおいしだ)最上川(もがみがわ)」 (原文)

最上川(もがみがわ)乗らんと、大石田(おおいしだ)と云う所に日和(ひより)を待つ。

(ここ)に古き俳諧の種こぼれて、忘れぬ花の 昔を(した)い、芦角一聲(ろかく・いっせい)の心を(やわ)らげ、この道に さ

ぐり足して、新古二道(しんこ・ふたみち)に 踏み迷うといえども、道標(みちしるべ)する人しなければと、わりなき一巻(ひとまき)を残しぬ。
このたびの風流、(ここ)に至れり。

最上川(もがみがわ)

最上川(もがみがわ)陸奥(みちのく)より()でて、山形を水上(みなかみ)とす。

碁点(ごてん) (はやぶさ)など云う 恐ろしき難所有り。

板敷山(いたじきやま)の北を流れて、果ては酒田(さかた)の海に()る。

左右 山覆(やまおお)い、茂みの中に舟を(くだ)す。

(これ)に稲 積みたるをや、稲船(いなぶね)というならし。

白糸の瀧は 青葉の隙々(ひまひま)に落ちて、仙人堂(せんにんどう)、岸に臨みて立つ。

水みなぎって 舟危(ふねあや)うし。

  五月雨(さみだれ)を あつめて早し 最上川

 

(現代語)

最上川を舟で下ろうと大石田というところで日和を待った。

「こごには古くから俳諧の種が蒔かれていて、いまも俳諧隆盛の昔を慕って、文字通り『芦角一声』の、田舎の風流ながら、心ば和ませて、この俳諧の道を手探りすながら歩んで来たけれど、新しい句風がいいのか古い句風がいいのか二つの道のあいだで迷っているのですが、教えてくれる人もいない」と言うので、やむなく俳諧一巻を残しておいた。今度の旅の風流は、こういう辺地のところにまで至ったのである。

最上川は、陸奥から流れ出て山形を上流としている。碁点や隼などという恐ろしい難所がある。(「みちのくにちかきいではの板じきの山に年へて住ぞわびしき」の歌枕で有名な)板敷山の北を流れて、最後は酒田の海に入る。川の左右は山に覆われているので、まるで茂みの中を舟下りするようなものだ。この舟に稲を積んだのを稲舟といい、(「もがみ川のぼればくだるいな舟のいなにはあらず此月ばかり」と詠われたりしている。)白糸の滝は青葉の間に落ち、(源義経の下臣常陸坊海尊をまつる)仙人堂は河岸に隣接して立っている。水量を満々とたたえて舟は危うい状態だ。 

 「五月雨をあつめて早し最上川」

 

(語句)

●「最上川乗らんと」:最上川の舟下りをしようとの意。山形県を流れる河川で、日本三大急流

 の一つ。歌枕でもあり、「古今和歌集」にも載っている。「最上川 のぼればくだる 稲舟

 (いなぶね)の いなにはあらず この月ばかり」(東歌・陸奥歌)

●「大石田」:最上川の中流に位置し、河口付近の酒田とを結ぶ舟運の船着場として栄えた。そ

 の上流域には多くの難所があるため、最上川舟下りの起点だった。大石田で荷物を陸揚げし、

 そこから陸路で運んでいた。大石田には、尾花沢で知り合った船問屋の一栄、大庄屋の川水な

 どの俳人がいた。

●「芦角一聲(ろかく・いっせい)」:芦茄(あし笛)と胡角(つのぶえ)を混交した芭蕉の造語のよう

 で、鄙(ひな)びた芦笛を吹くような、「辺鄙な田舎の風流を指す」、とのこと。
●「新古二道に踏み迷う」:情報の乏しい鄙にいると、俳諧道に入ってみても、いま起こってい

 る新しい動きが分からず、伝統俳諧への批判を理解できないまま、古今の俳諧の道に迷ってし

 まう、の意。

●「わりなき一巻」:やむを得ずに巻いた連句一巻。曾良の「俳諧書留」に芭蕉、曾良、一栄、

 川水による句が残されている。

●「このたびの風流」:この旅の俳諧の成果は、このような形 でも実現したのである。草深き

 東北の地に自分の俳諧理念が伝授された喜びを表す。

●「稲船(いなふね)」:舟運(しゅううん)で米俵を運んだもので、馬車よりも多くの量を運べた。

●「白糸の瀧」:最上四十八瀧の中で最も有名で高さ220mの滝。歌枕にもなっている。「最上

 川 落ちまふ瀧の白糸は 山のまゆより くるにぞ有りける」(源重之)
●「仙人堂」:源義経の臣、常陸坊海尊を祀る。海尊は仙術を会得して長生きしたと伝えられ

 る。場所的には、白糸の瀧より少し上流にある。 
 

(俳句)    

 「五月雨を あつめて早し 最上川」

   五月雨の時期に、その雨をたくさん集めて励しく流れる最上川よ。

 

(写真)

 

 

 

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次回は 第31回「羽黒山」

 

 

(担当H)

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