『宇宙』 第2回 ブラックホール | 奈良の鹿たち

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    『宇宙』 第2回 

 「ブラックホール」

  (Black Hole)

 

 

<ブラックホールとは?>

太陽よりも30倍以上重い恒星は、晩年には中心で核融合反応を続けられず、その結果、重力を支えることが出来なくなって超新星爆発を起こした後、中心にきわめて密度が高く重力の強い天体が現れます。これがブラックホールです。

きわめて高密度で強い重力場のため、物質だけではなくさえある領域を超えると脱出することが出来なくなります。を発せられないため、ブラックホール自体を観ることは出来ません。

さらに、周りの天体に対して強大な重力の影響を及ぼし、その天体の軌道を曲げたり、吸収してしまったりします。

 

<ブラックホールの成立ち>

質量が太陽の約8倍よりも重い星の場合は、巨星に進化した後も中心部で核融合によって次々に重い元素ができ、最終的に鉄からなる中心核が作られます。鉄の原子核は結合エネルギーが最も大きいため、これ以上の核融合反応は起こらず、星の中心部は熱源を失って重力収縮します。収縮が進むと鉄の原子核の陽子と電子が結合して中性子へ変化し、やがて星の中心部がほとんど中性子だけからなる核となります。この段階で、重力収縮によって核に降り積もる物質は激しく跳ね返されて衝撃波が発生し一気に吹き飛ばされます。これが超新星爆発です。

質量が太陽の約30倍以上ある星の場合には、自己重力が中性子の核の縮退圧を凌駕(重力の強さで中性子が潰れ始める)するため、超新星爆発の後も核が収縮(重力崩壊)を続けます。この段階になると星の収縮を押し留めるものは何も無いため永久に縮み続けます。こうして小さく収縮した天体がブラックホールです。

 

<ブラックホールと一般相対性理論>

1915年のアインシュタイン Einsteinの一般相対性理論general theory of relativityでは、質量を持つ物体が周りの空間にひずみを生み出し、そのひずみによって重力が生じるとされました。

また相対性理論は、「見る人の立ち位置によって事象は異なる」というものでした。

ブラックホールの中で物体と同じ位置で見ているなら、物体は落ちていくように見えますが、地球から物体を見ているとブラックホールの入り口(事象の地平面)で止まっているように見えます。一般相対性理論では、時間は重力の強いところほど進み方が遅いとされており、ブラックホールの最深部(「特異点」)では、時間は止まってしまうことになります。

1916年、ドイツのシュヴァルツシルト Schwarzschildは一般相対性理論の重力場の方程式をある条件の下で解き、ブラックホールの存在を理論的に予言しました。

(ブラックホールとホーキング放射の概念図)(広島大プレスリリースPDF)

ブラックホールの事象の地平線近傍(わずかに内側)の空間において対生成が起きた際(点線内)、対消滅する直前に反粒子だけがブラックホールへの中心へと落ち込み、粒子が脱出することにより、ブラックホールから質量が放出される現象がホーキング放射の考え方です。

 

ホーキング博士は、量子効果でブラックホールがエネルギーを持った熱的粒子を放射して、ゆっくりと蒸発するという「ホーキング放射」を提唱しました。ブラックホール近傍の量子力学的な真空のゆらぎから粒子・反粒子が対生成し、一方がブラックホールに取り込まれ、もう一方がエネルギーをもったまま放出されるということです。アインシュタインの E = mcからエネルギーEが減れば、質量mも減るということになります。

最終的にブラックホールは蒸発し消滅することが指摘されています。

最近の学会の研究では、ブラックホールからエネルギー粒子が放出される際、その素粒子の情報(例えば水素だとかリンといった元素的情報など)も消えるかどうかで論争されていました。

ホーキング博士の主張は、情報は消えるというものでした。しかし、結論的には、プリンストン高等研究所のマルダセナ(Maldacena)教授によって量子論的に情報は消えないということが証明され、ホーキング博士は誤りを認めました。

 

<原始ブラックホール (primordial black holes、PBH)

原始ブラックホールとは、ビッグバン直後(ビッグバン後1秒未満)に形成された可能性のある仮説上のブラックホールです。

生まれたばかりの宇宙は、真空ではあったが密度にムラが存在していました(量子のゆらぎ)。そこから急膨張し(インフレーション)、密度のムラが大きくなりました。そして、密度の高いところが、みずからの重力によって極限までつぶれて原始ブラックホールになりました。初期原始ブラックホールはきわめて小さく、無数存在していたが、ほとんど蒸発してしまいました。

原始ブラックホールの性質

原始ブラックホールは、生成過程によって、素粒子並みの極少から、太陽100万個分の質量のものまであると考えられています。極小のものは、非常に暗くて小さく作用を及ぼさないため、直接観測することが困難な天体です。また、ニュートリノのように、高い透過性をもっていてほぼ非衝突で、安定しており、非相対論的な速度を持っています。このことからも、原始ブラックホールはダークマター(暗黒物質)ではないかと考えられています。

原始ブラックホールは非バリオン(バリオン:元素からなる物質)であり、見えなくても重力を持っているためダークマター(暗黒物質)の有望な候補です。 原始ブラックホールはまた、重い銀河中心部での超大質量ブラックホールや、中間質量ブラックホールの原種の有望な候補でもあります。

原始ブラックホールの形成        

原始ブラックホールの寿命

原始ブラックホールは、恒星の崩壊によって形成されたものでないため、いかなる大きさにもなる可能性があります(極小から極大まで)。10-8 kgから太陽質量の数千倍を超える範囲の初期質量を持ちうると考えられています。しかし、初期の質量が 1012 kg を下回る原始ブラックホールは、宇宙年齢よりも短い時間で完全に蒸発してしまうため、現在まで生き延びることは出来ません。質量がおよそ 1012 kg のブラックホールは、寿命が宇宙の年齢とおおむね等しくなります。このような低質量のブラックホールが、ビッグバンの際に十分な量形成されたのであれば、我々は銀河系内の比較的近傍において、これらのいくつかの爆発を観測できるはずです。2008年に打ち上げられたNASA のフェルミガンマ線宇宙望遠鏡の観測データからは、1013 kg 以下の原始ブラックホールがダークマター全体の質量に占める割合は1%未満であるという結果が得られました。 原始ブラックホールの蒸発は、ビッグバン元素合成にも影響を及ぼし、宇宙の軽元素(最も軽い元素は水素)の存在量を変える可能性があります。 しかし理論的にも、原始ブラックホールは、小さく重力的には大きな影響を及ぼさない存在であるため、宇宙でそれらを検出するのは極めて難しいと考えられています。

 

<宇宙初期には既に超巨大ブラックホールが存在した>

最近の研究で、ビッグバンから6億9千万年後には、太陽の8億倍の質量をもつ超大質量ブラックホールが100個ほど存在していたといわれています。宇宙は、138億年前に誕生しましたが、宇宙の晴れ上がりからファーストスターが誕生するまでの2.5億年~3.5憶年の宇宙の夜明けが訪れるまで、恒星などはなく、その間、いわゆる宇宙の暗黒時代が続いました。では、どのようにして宇宙創造から数億年という短期間で、これほどの巨大ブラックホールが100個もつくられたのでしょう?

研究では、初期宇宙はガスの濃度が高かったので、それらガス雲が集まって星や銀河を短い期間でつくり上げ、その後、超新星爆発を連発して中間質量ブラックホールが出来、それらが合体して超巨大ブラックホールをつくりあげたのではないか、と言われていますが、そうとは言い切れない理論的問題点も多い。

 

<ブラックホール「はくちょう座X1」>

ブラックホールの存在は、理論上は予言されていたものの実在するか否かは数十年もの間、天文学上の論争が起こっていました。

1960年代に謎のX線が「はくちょう座」方向から飛来するのが観測されました。X線を発するけれど目に観えないこの天体は「はくちょう座X1」と名付けられました。1970年以降、X線探査の精度が向上し、この天体は半径300km以下とたいへん小さく、さらに質量が太陽の6~20倍もあることが分かりました。これらの観測事実から導き出された性質をすべて満たすの天体はブラックホール以外考えられないという結論にいたりました。

こうして「はくちょう座X1」ブラックホールだと認められたのでした。

 

これらの観測的な証拠からブラックホールは実在すると考えられそうですが、果たして本当に存在するのでしょうか? やはり、目で観ないと確証は得られません。

それが、史上初めて直接撮影され公開されたのです。!!

 

<ブラックホール「M87」>

そして、2019年4月10日 地球から約5900万光年はなれた銀河「M87」の中心部にある超大質量ブラックホールの映像が公開されました。

これを成功させたのがイベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)です。EHTは2006年から

世界6地点8ヶ所(2017年当時)の電波望遠鏡を連動させ、それぞれの場所で取得したデータをスーパーコンピューターで重ね合わせることで、地球規模の直径約1万kmという仮想的なパラボラアンテナをつくり上げました。

この国際協力のおかげで高い視野を手に入れ、ブラックホールの直接的な証拠を史上初めて画像で示すことができたのでした。


 

さらに、M87のブラックホールシャドウを撮影した「イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)」のさらなる研究成果が2021年春、続々と発表されました。

一つは、M87中心のブラックホールの周辺に整列した磁場が存在することを直接観測で示したこと(2021年3月発表)、もう一つは、このブラックホールを地上の電波望遠鏡だけではなく、宇宙空間の可視光線、紫外線、X線、ガンマ線の望遠鏡をも駆使してブラックホールジェットの詳細な姿を捉えました(2021年4月発表)。その強力な重力により、周辺にあるほとんどの物質がブラックホールに捕獲され落ち込む一方で、一部の物質は捕獲される寸前に重力から逃れてジェットとして宇宙空間に吹き飛ばされています。

M87磁場画像

楕円銀河 M87 の中心にある巨大ブラックホールのごく近傍で、電波の偏光を捉えることに成功しました。これは、ブラックホールの周りに整列した磁場が存在することを初めて直接的に示す成果です。

 

M87ジェット画像

周囲にあるほとんどの物質がブラックホールに落ちる一方で、一部の粒子はブラックホールの重力に捕まる寸前に逃れ、ジェットとして宇宙空間に吹き飛ばされます。

EHTが新たに公開したブラックホールのごく近傍の偏光画像を用いて、落ち込む物質と噴出する物質とが交錯するブラックホールのすぐ外側の領域を初めて調べることができました。そして理論解析の結果、ブラックホールへつながる螺旋状の磁場が物質を押し返せるくらい強く、物質落下とジェット噴出を交通整理しているという仮説がもっともらしいことがわかりました。

M87中心核から噴出して5000光年以上にわたって伸びる明るいジェットは、銀河がもつ最も神秘的でエネルギーに溢れた特徴の1つです。

 

 

 

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次回は 第3回「ビッグバン」

 

 

(担当 P)

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