仕事に行く4 | 精巣腫瘍をめぐる冒険

精巣腫瘍をめぐる冒険

Ⅲ年b組 予後中間群

2月12日。

『腰が痛い。』もはやこれは確実なことでした。

みなさん気を付けなければなりません。この腰痛は、身動きがまったくとれなくなるような圧倒的なものではありません。ずきずきと虫歯のように痛むようなものでもありません。痛いは痛いのですが、それは「重い」に限りなく近いような痛みなのです。まるで、体は小さいけれど鉛のように重たい猿が腰にまとわりついていて、もう何十日間もいっときもはなれることなく生活しているかのようなのです。しかし、わたしにはその猿の姿は見えません。こうした場合、みなさん気を付けなければなりません。下のほうへ、下のほうへと、大地へ土へと、あらがいがたい力が体の内に作用しているときには、気を付けなければなりません。

この日はもう市販薬はまったく効かず、両親の力を借り、わたしはZ病院に向かいました。
そうそう、昨日は祝日であったため、受診は今日になったのです。
午後2時。約束の時間に、わたしの名前が呼ばれました。わたしは診察室に入りました。

「こ、こしの痛みが強くなってしまいまして」と、わたし。

「う~ん、そうですか。」と、医師。

「き、昨日は腰の痛みが強すぎて仕事を早退したんです。」と、わたし。

「そうですかあ。なるほど。でも、レントゲンを見てもとくにおかしいところはないんですよねえ。う~ん、では、痛み止めを出しましょう。」と、医師。

「は、はい。仕事のほうは……」と、わたし。

「手術までは、あんまり体を動かさないほうがいいかもしれませんね。」と、医師。

「あ、は、はい。」と、わたし。

明日は仕事に行けないということを、上司に連絡しなければならない、と、わたしは思いました。
申し訳ない気持ちでいっぱいでした。