仕事のこと、子供の事、最近のまんがとか、店のこと、
冗談、たわいもない会話。

でもすごく安心する。気が楽になる。


最近すごくカナのことが気になっているので
カズのことも聞いてみた。


オレ「最近きた?」

ヨシちゃん「全然来ないよー。金ない、って。」

オレ「絶対あるよ。」

ヨシちゃん「絶対あるよね。」

オレ「だってまだ住んでんでしょ?」

ヨシちゃん「うん、実家。」

オレ「じゃあるよね。」



なんかほっとした。

ヨシちゃんは、
カナのことでカズと疎遠になっていることは知らない。

ただ、お互い大人になって忙しくてあってないと思っている。


「全然連絡とってないんだよね。
新年会でもあまり人集まらなくて来なかったし。」

そんな会話をしているうちに終わった。


オレ「じゃまた連絡するね。」

ヨシちゃん「うん。じゃぁまた。ありがとうございます。」

オレ「またね。ありがと。」



店を出る。


いつもながら爽快な気分。

前向きな気分になる。

でもこれからする行動は過去をたどる事になる。

少し矛盾してるのかな。





そして持っていた一通の手紙を裏返した。



昔からお世話になっている友人のいとこがやっている美容室に髪を切りに言った。
もうかれこれ、8年近く切ってもらっている。

いつからか床屋じゃなく美容室に行くようになり、
あまり一見で行くのが苦手な僕は
下手でもなんでもリラックスできるところに行っていた。

でもやはり気を使ってしまう。言いたい事は言えない。
顔がかゆくてもかけない、言えない。
疲れる。
だから髪切るのあまり好きじゃない。


大学の時、高校からの友人が「従兄弟が美容師やってるから行こうよ。」
と誘ってくれて試しに行ってみた。

パーマをかけ、金髪にした後だった。

金髪が伸び、かなりヤンキーみたいなツートンカラーになっていた。
そう、カナとも遊び始めていた頃だった。

最初は気を使ったけれど、その後家にも切ってもらいに行ったり、
友人のおかげで徐々に気兼ねしなくなって行った。

それから何度か一人でも店に足を運ぶようになり、
いつしかそこでしか切らなくなった。

気に入らない時もある。
でも他に行く気にはならない。

特にしたい髪型があるけでもなく、いつも今っぽく、かっこよく、
としか注文しない。
でもそんな注文でもやってくれるのがすごく楽。

切ってらっている時は髪の事なんか気にせずに、
本を読みながら近況の報告、最近のくだらない話。

よほどの事がない限りずっと彼に切ってもらう事になるだろう。
なんか本当の従兄弟って感じにもなっている。


カズの従兄弟だ。

行ってしまった。
彼女に対する気持ちの大きさに改めて自覚した。
どうしても衝動にかられ、行ってはいけない、行ってもしょうがない、
そこにはつらい現実があるだけ、だとわかっていても
途中で引き返す事はなかった。

どんなところに住んでいたのか。
どんな生活を送っていたのか。
駅から家路につくまでに移動はどうしていたのか。
まわりはどんな環境なのか。

とにかく彼女がいた、確実に生活をしていた場所、空間に立ち
空気を感じたかった。
同じ場所の空気、匂い、風景、待ち行く人々。
同じものを感じたかった。
そして、もしかしたらというわずかな、でも大きな期待。
もし、まだ住んでいたら。

もう住んでいないと思っていた。
しかし、万が一、住んでいたらという期待。
住んでいなかったとしてもたまたま懐かしみに来ていて会えたら。
なんて小説や映画みたいな事が実際に起きる訳はないのに、
現実は小説より奇なり、という淡い期待。

そんな衝動に駆られ、僕は走り出していた・・・