そんなキケンな香りをなんとなく不安に感じつつも

時は流れて行きました。


夜になるとカズから誘いがあり、

車を出して街に出る。


車に乗ること自体楽しくて、

はやりの曲を大きめの音量でかけて

仲の良い友達とだべっているのが楽しくて、

ちっちゃいけれど世界が広がった感じで楽しかった。


そして次の日、

またカズから電話がある。

おれは運転手か!?

まぁアッシー代わりにされているようで

キレそうになる時もしばしばありますよ。

もちろんカズにはそんな気はないのですけどね。

お互い様ですし。

出せるときに出せる方が車を出すのだからお互い様だよね。


そして、カズを拾い、

カナに電話をかける。


カナもヒマだそうで、拾いに行く。


そしてすることもないのでファミレスへ。

しゃべる。

バイトのこと、

学校のこと、

女のこと、

友達のこと、

週末のサッカーのこと。

そうそうカズとは同じサッカーチームに入っていて

毎週末にやっていたっけ。



そんな夜が毎日毎日繰り返されていた。

そのうちにカズからだけでなく、

カナからも電話がかかるようになり、

カナ、カズ、カズ、カナ、カナ、カナ、カズ

と毎日毎日メールやら電話やら掛かってきていた。


バイトとビデオ鑑賞と日焼けぐらいしかすることなかったので、

正直時間を持て余さなくていいので助かっていた。



カナから、カズから、

「ヤス(僕)ヒマ?遊ぼうよ。」

そんなのが連日。

日課のような定番になっていった。



すると出会ってから1週間ないし、

2週間くらいすると、

カナ、カズ、僕の3人は、

すごく、ものすごく急速に仲良くなっていった。


まるで昔からの親友同士のように、

自分の一部であるかのように。



それほど時は経っていないのに、


もう


かけがえのない存在


になりつつあった。



そんな情けない記憶を思い出してから五分程、

さらにナビに従って行くと細い道に入り、なんか懐かしい感じがした。


そうだ、ユミの家に来たときに似ている。

ユミはカナの親友だ。


そうか同じ鶴見だった。

きっとそれもあってこの地に引っ越したんだろう。


到着を知らせるナビのアナウンスがあった。

ゆっくり走らせ、それらしきアパートを探した。



白い二階建てのアパートを見た瞬間。


これだと思った。来た事ないのになぜか直感で。

たぶんこれだ、きっとこれだと思った。

二階を見上げてみる。



車置き場があったので適当に止めた。

変な人がうウロウロしていると怪しまれないように普通に降り、

あたりを見回した。


すぐ近くに小学校があった。

ふと、カナは子供すきかな?なんて意味不明なことを思った。


郵便受けを見る。


すると一階のものしかない。

少し周囲を見てみるが二階のはない。

となるとポストは二階なのか。


見上げながら階段を上がる。彼女の部屋は203だ。


ドアが見える。


そこには202と書いてあった。


違う、だが隣だ。



4つあって左は一つしかないということは右だ。



目線をずらす。


するとキッチンの窓らしきものが見えた。


いない。カナは住んでない。

すぐにわかった。


窓の桟にござが取り付けてあった。

絶対にこれは付けない。

違う。


ドアの横を通り過ぎながらふとネームプレートを見るが

何も書かれていない。

先に郵便受けがある。

そこまで歩いて行く。


前に立ち郵便受けを確認する。

203、203、203。

あった。


名前は、タカハシと書かれていた。

やはりもういない。


虚脱感はなかった。

やはりいなかった。

手紙にしとけば良かったかな。

とも思ったがすぐにそんなことはないと思った。


結局着かなかったわけだ。

また何ヶ月何年もの時間を待つのを避けられた。


階段を降りる。

そしてもう一度見上げた。


すると看板が目に入った。



○○商事 電話番号○○○-○○○○。



不動産屋だ。


考える間もなく記憶した。


そして車に乗り込む。

会社名を携帯に保存する。

あとでネットで調べよう。

いざとなったらここに訪ねてみよう。

教えてくれるか知っているかわからないが。


そして車を走らせた。


そのブロックを二周した。

もしかしたら他にもアパートがあるかもしれない。

しかし、それらしきものはなかった。

やはりあそこだ。

もう一度前に行った。

そして見上げる。


少し眺めた後、看板を携帯で写真にとった。



そして今度は鶴見駅に向かってみた。



着くと大きな駅なので意味がないと思い、

そのまま走り抜けた。


ナビを操作する。

目的地を家に設定。

帰ろう。

そして手紙でも書くか。どこに?



品川辺りに差し掛かったところで

行き先を変更した。



初台。



幡ヶ谷か初台だった。

前にカナが住んでいて、たくさんの事があった土地だ。


行けば道は覚えている、思い出すだろう。



いつも行っていたモスバーガーが今もそこにあった。



向かいに車を止める。


少し眺めた。




いつもここで会っていたんだっけ。

三人で。

カナとカズと三人で。




入って行く人、出てくる人を眺めながら

なぜか写真に収めていた。



そしてしばらく店の中を見ていた。

いつも座っていた奥の席に目をやる。

いつもあそこでくだらない話をしていたんだっけ。



カナがいるかも。

いるはずはない。


7年も前だ。



○○○○マンション。

到着。

カナが住んでいたマンションだ。



住民表示を見る。

1階部分。


105号室だけ名前がない。

カナが住んでいた部屋だ。



カナが引っ越したのは、

僕がカナと会わなくなってしばらくしてからだった。



結局、自分の中に眠るカナの記憶と

カナの足跡を逆順で辿る不毛な一日となっていた。



だけど、

カナとの日々は本当に重要な人生の一部であったと再認識出来た日でもあった。



カナどこで何をしているんだい。

前みたいなんて思っていない。

だけど、また僕の人生に関わって欲しい。

めちゃくちゃになったとしても、また。

しかしかなり威圧的に、

「おれこいつと話あるから悪いけど。」

とヒデくんに言った。



「二人だけで話したいんだ。」

「車の中で話そうか?」



カナ「うん。わかった。」

オレ「行こう。」

カナ「ヒデくんごめんね。ちょっと待ってて。」



本当に腹がたった。

ヒデくんなんかどうでもいいんだよ。

気なんか使ってふざけるな。

呼んだカナもカナだが、のこのこ来たヒデくんもヒデくんだ。

状況を知らされてなかったのかもしれない。

きっとそうだろう。知ってて来てたらただの能無しだ。

でも、知らされていても来るべきじゃなかった。

もちろんヒデくんには罪はない。運が悪かっただけだ。




二人は車に乗った。

エンジンは切ったまま。

道路が見える。その向こうはコンクリートの壁。グレーの壁が見える。

音楽もかかっていなかった。

懐かしいはずのその空間が重たい緊張感に包まれていた。




まず謝った。


オレ「ごめん。」

カナ「ううん。謝んないで。」

オレ「いや本当自分勝手でごめんね。」

カナ「話って何。」

オレ「うん、いろいろ考えたんだけど・・・、」

「・・・・・・・。」

「ふー、やっぱり切りたくない。

切れない。俺には必要だ。

悪い事ばかりしてきた、悲しませるような事ばかり。

なんども突き放した。

その度に都合の良いことを言って謝って来た。

そしてまた悲しませていた。

でも今回を最後にしたい。

君を誰よりも大事にしたいし、大事だと思っている。

カナを愛しているし、誰よりもいとおしい。」



カナ「ありがとう。」

オレ「だからやっていきたいんんだ。遅いかな。」

「いまさらだけど付き合って欲しい。」




でももちろん遅かった。わかっていたけど遅すぎた。



カナ「もう戻れない。無理だよ。

選ばないって決めたから。

それにさんざん悲しんで来た。

それはないことになんて出来ない。

嬉しいけど答える事は出来ない。

ごめんね。

もうカナには無理なの。」



オレ「・・・・・・。」




泣いていた。溢れる涙が止まらない。



全てが終わった。予想していたけれど

やはり現実になると耐える事が出来ない。



「そうか、そうだよね。

わかった。わかった。

ごめんね、ごめんね。」



オレは謝って泣いてばかりだった。



「もう二度と会わない。連絡もしないだろう。」



ウソにならないように自分に言い聞かせていたりもした。



「これで終わりだね。さよなら。

ありがとう。

カナ本当にありがとうね。

いままでありがとう。

これからもずっと忘れないから。」




彼女は何も言わなかった。

ただ鼻をすすっている音だけが聞こえて来た。

顔を見る事が出来ない。



しばらくすると、

小さい鳴き声で、「じゃあね。」

とだけ言って車から降りて行った。


店に入る階段を上って行く姿を目で追って、

見えなくなった瞬間、

たくさんの涙と嗚咽と大きな声で目一杯泣き叫んだ。



死んでもいい。死にたい。

カナがいないのならばそんな人生意味がない。

死んでしまいたい。死んでしまいたい。



グレーのコンクリートの壁が目に入った。

そのまま突っ込んで死にたい。

エンジンをかけた。

反対車線の壁に突っ込む。

車道に飛び出した瞬間に横から車が突っ込んでくるかもしれない。



パーキングからドライブへ。

サイドブレーキを解除。


「カナありがとう。」


アクセルを全開に踏み込んだ。


車道に出る。


車は来なかった。

そのまま踏み続ける。


壁が近づいてくる。



反対車線に出たとき、


ブレーキを踏んでいた。



情けない。何一つ自分で決めた事を守れない。

情けない自分の弱さ。

死ぬ事も出来ない。

悲しませる事だけしか出来ない。


また涙があふれてきて泣いていた。


今度は自分の情けなさに対する涙だった。

ただの泣き虫だ。





そんな記憶が蘇った。


後味が悪かった。



その後しばらくして知ったのだが、

ヒデくんは戻って来たカナがファミレスで

周りを気にせず大泣きしていてびっくりしたらしい。


でもそんな話を聞いたとき、哀しいけれど嬉しかった。




彼女の中に確かに僕がいたんだとわかったから。