Every Day I Love You vol.67 | φ ~ぴろりおのブログ~

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イタズラなKiss&惡作劇之吻の二次小説を書いています。楽しんでいただけると、うれしいです♪ 

「琴子ちゃん、本当に可愛いわ。とっても素敵。」

「おばさんが可愛くしてくれたからです。本当にありがとうございます。」

深い赤色をした古典柄の中振袖に濃紺の袴、振袖はおばさんが着ていたもので袴は卒業祝いにと用意してくれた。

美容院を予約しようとしたら、おばさんが私に任せてちょうだいとヘアメイクから着付けまですべてやってくれた。

おばさんは卒業式にも一緒に来たいと言っていたけど、入江くんから高校の卒業式と違って名前を呼ばれたりもしないし、保護者は別会場で式典の中継を見るだけだと聞き、お父さんが行かないと言ったこともあって出席をやめた。


「大学に行くんでしょ?卒業式も一緒に行ってあげたらいいのに。」

カメラを私に向けてシャッターを切りながらおばさんが言った。

「何で卒業生でもないのに退屈な学長の話をわざわざ聞きに行かなきゃならないんだ。研究室に用があるんだよ。」

おばさんの言葉に入江くんは苛立ちを隠そうともせず冷たく言い放つ。

「ほんとに冷たいんだから...写真くらいはいいでしょ?記念なんだから。」

「一枚だけだからな。」

入江くんが私の隣りに立つ。一緒に写真を撮ってもらえると思ってなかった私はうれしくて入江くんを見上げた。

「ほら、前見ろよ。」

「う、うん。」

前を向くと入江くんが私を引き寄せるように肩を抱いてくれた。

「きゃーっ。いいわぁ。素敵よーっ。撮るわね。はい、チーズ。」

カシャ...フラッシュが光る。目瞑ってなかったかな...変な顔してないといいな。


「おい、琴子。タクシー来たみたいだぞ。」

「うん。わかった。じゃあ、おばさん、行って来ます。」

「琴子ちゃん、気をつけてね。行ってらっしゃい。」

入江くんが今日はこんな恰好をしているからか、ドアを開けて待ってくれていた。

「ふふっ。ありがと。」

入江くんと目が合う。

「早くしろよ。タクシー待ってるだろ。」

入江くんはいつものぶっきら棒な口調で言うとズンズン歩いて行った。

「あ。待ってよぉ。」

一緒に大学に行く最後の朝...いつもとちょっぴり違うような...でもやっぱりいつもと同(おんな)じ私たちだった。



入江くんはおばさんに言った通り、会場に近付くこともなく医学部校舎に向かった。

ホールで行われた卒業式は文学部とも一緒だったからじん子と理美と一緒にいた。

入江くんが言った通り、退屈な学長の話を聞くだけであっけなく終わった気がする。

学科ごとに教室で卒業証書や免許状を一人ひとり受け取ったときの方が何だかじーんとした。

学生証を返した時、本当に学生じゃなくなるんだなって思った。


今日の行事は謝恩会を残すだけになった。謝恩会までは少し時間があった。

じん子と理美とは謝恩会の会場が違うので記念写真を撮ってから別れた。

同じ学科の仲のよい友達はドレスに着替えるために一度家に帰るというので、会場のホテルで待ち合わせをした。

私は一人で構内を散歩した。着物を着てるせいもあるけど私はゆっくりゆっくり歩いた。


テニスコート...入江くんを追い掛けて入ったテニス部。

結局最後まで球拾いだったけど、入江くんはほとんど練習に出てこなかったけど...入部してよかった。

テニスウェアの入江くんはすごく素敵だったし、試合をしてるときの入江くんは本当にカッコよくて、汗までキラキラしてた。

綾子ちゃんの代わりに一緒に試合にも出たし、夏の合宿はちょっと忘れられないくらいたくさんの想い出がある。


中庭のベンチ...一緒に帰るときはいつもここで待ち合わせた。ドキドキしながら入江くんの来るのを待った。

一緒に帰れるなんてあんまりなくて、待ち合わせでここに座っていたときの私はいつもすごく幸せだった気がする。


掲示板...ここに何度おばさんの手作りのポスターが貼り出されただろう。その度に私たちは噂の渦中に投げ込まれた。

そういえば結婚することになったときは、おばさんビラまで配ってたっけ。

「またかよ。」「ガセネタだろ。」って言われたし、いまでも私と入江くんが付き合っていることさえ信じない人もいる。

信じられなくても仕方ないかな...私だってまだ時々夢じゃないかと思う。

もうすぐ入江くんのお嫁さんになれるなんて本当に夢みたいだ...私はなんて幸せなんだろう。


図書館...入江くんはいつも難しそうな本を読んでて...お医者さんになりたいのかなって気付いたのもここだった。

邪魔するなって怒られることもあったけど、私が怒って飛び出したこともあった。

入江くんが私の20歳の誕生日だって知ってるのに家庭教師の予定入れちゃうから...でも、ちゃんと来てくれた。

金ちゃんと武人くんが外でケンカして、入江くんが「琴子が好きなのは俺なんだぜ。」って二人に言って、そのまま入江くんと一緒にバイトに行ったことがあった。金ちゃんと武人くんには悪かったけど何だか嬉しかった。


学食...金ちゃんがまさかここで働くことになるとは思わなかった。金ちゃんはいつも私にやさしくしてくれた。

友達に戻れて本当によかったって思う。ここではじん子と理美にいっぱい話を聞いてもらった。

入江くんとも一緒に食べた。ついこの間だし、やっぱり最後だからと一緒に食堂に行った日が一番心に残ってる。


何度も覗きに行った理工学部...いつも松本姉が入江くんの隣にいて、入江くんは楽しそうに話してた。

入江くんが女の子と仲良くしてるのをそれまで見たことなくて、何だか入っていけない雰囲気でショックだった。

入江くんと松本姉は似てるところがあるから、きっと話が合うんだと思う。入江くんは私には難しい話はしてくれない。

まぁ、されてもわからないんだけど、羨ましいなって思ってしまう私は欲張りなのかもしれない。


唯一同じ講義を受けた教室...いつも入江くんの隣りに座った。その反対側には松本姉がいた。

高校で一緒のクラスになるという夢が叶わなかったから、本当に難しかったし、中川先生に目をつけられて散々だったけど、入江くんと並んで講義を受けられた英文解釈は一番楽しみな講義だった。


最後に私が向かったのは医学部校舎...入江くんがここに通えるようになって本当によかった。

入江くん、頑張ってね。立派なお医者さんになってね。入江くんだったら日本一の、ううん、世界一のお医者さんになれる。

ずっと応援してる。大学で頑張ってる姿を見ることはできなくなるけど、ずっとずっと応援してるから。


入江くんがよくいた講義室...ドアを開けると入江くんがいそうな気がする。

今日は卒業式で誰もいないのに、いつものクセでそーっとドアを開けた。

「クスッ..来ると思った。」

「い、入江くん。どうして?」

ビックリして、うれしくて、入江くんに駆け寄って聞いた。

「お前が行きそうなトコくらいわかるよ。遅かったな。想い出の場所巡りして感傷に浸ってたんだろ?」

「...そうだけど。」

そうだけど...その通りだけど...からかうような言い方が今日は何だかちょっとムッと来る。


「俺、大学入ってよかった...大学なんて行きたくない、勉強なら一人でできるって言った俺に、将来何になりたいか探しに行く時間だって言ったよな...その通りだったし、お前のお蔭で刺激的な大学生活が送れたよ。」

「入江くん...」

あの夜を思い出す。私のせいでT大入試を受けられなかったことに責任を感じて出て行こうとした夜...

入江くんがくれた思いがけない言葉を噛み締めていると、優しい声で入江くんが言ってくれた。

「琴子、卒業おめでとう。」

「ありがとう。」

向かい合って微笑み合う。入江くんが私の肩にそっと手を置いた。

目を閉じると...入江くんが大学生活最後のキスをくれた。


~To be continued~