Every Day I Love You vol.63 | φ ~ぴろりおのブログ~

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イタズラなKiss&惡作劇之吻の二次小説を書いています。楽しんでいただけると、うれしいです♪ 

「琴子、入るぞ。」

「どうぞ...ごめんね、取りに来てもらって...座って。」

俺は部屋に入るとベッドに腰掛けた。琴子が机の上にあった水色の包みを両手でそっと差し出す。

「食べてくれる?」

「出来によるかな?」

「たぶん大丈夫だよ?」

「クスッ..多分って何だよ。」

リボンを解いて包みを開け、小さな箱の蓋を取る。琴子は隣りに座り、俺の顔をワクワクした瞳で見つめる。


「カップケーキ?」

「ううん。フォンダンショコラ。」

「へー。頑張ったんだ?」

「うん。たぶんおいしいよ。食べてみて。」

「ぶっ...だから多分って何だよ...怖えーなぁ。」

紙製のカップを剥ぐようにして一口齧る。

「中のチョコはビターチョコだよな?この味は嫌いじゃない。ちゃんと生地も焼けてるし。結構イケる。」

「ほんと?よかったぁ。」


「あれっ。もう食べないの?」

「ああ。他に食いたいもんあるし。」

「え?」

何でキョトンとするんだろうな...この流れで普通わかるだろう。

初めての時から変わらない初心な琴子の唇に啄むように触れる。

「俺たちのバレンタインはいつもベッドの中だろ?」

ニヤリと笑って言うと、琴子が恥ずかしそうに目を伏せた。俺は琴子をゆっくりとベッドに倒した。



最後のメインイベントとも言える卒論発表会。うちの学科は全員が発表をする。

私は午前の部の一番最後だった。とちったりミスはいっぱいあったけど何とか発表が終わった。

結局、自分の発表が終わるまではドキドキしていたから、他の人の発表がまるで頭に入らなかった。

ちょっと早いけど待ってようかな...今日が最後だからと入江くんに頼み込んで、一緒に学食で食べる約束をした。

ウキウキとした足取りで教室を出ようとした時、声を掛けられた。


「いま、話せる?」

静かな声で訊かれた。あれからお互いに気まずくてまともに話したことはなかった。

「う、うん。少しなら。」

「久美子ちゃん、オマエからの手紙喜んでた。文通続けてるんだな。」

「う、うん。でも、どうして?」

意外な言葉に驚いて聞き返す。

「オレ、休みの日、月一くらいでボランティアに行ってるんだ。一緒に遊んだり、勉強教えるだけだけど。

それに、4月からあそこで働くことになったんだ。」

「そうだったんだ。」


「オマエは結婚するんだろ?」

「...うん。」

「...オレ、オマエのこと、入学した時から気になってたんだ。

でも、オマエ、入江追っかけまわしてただろ。オレ、入江のこと嫌いだったから...オマエにも幻滅した。

けど、実習で一緒になって...やっぱり好きだって...そんな顔すんなよ。もうわかってるから...」

啓太はどこか遠くを見るような目をしてそう言った。


「オマエ、あの時、泣きながら入江のこと庇ってたろ?置き去りにされて頭に来たけど...オレも考えたんだ。

入江はオレにないもの全部持ってて、自信過剰で傲慢で嫌なヤロウだと思ってた。

でも、全部持ってるのって意外と重たくてしんどいのかもなって...入江が無理矢理手に入れたワケでもないのに、ただ何でも持ってるからってアイツのこと悪く思うのは違うかなって...まぁ、好きにはなれねーけどな。」

照れくさそうに目を逸らす啓太を見て、私は自分がすごく恥ずかしくなった。


「私こそごめんなさい。どう呼んだらいいかわからなくて避けてたの...あんなに色々助けてくれたのに。

実習の時、『啓太さん』って呼ばなきゃいけなかったでしょ?

私、さん付けにすると、どうしても思い出しちゃうことがあって...さん付けで男の人のこと呼ぶの辛かったの。

だから、呼び捨てでいいって言ってもらえてうれしくて、よく考えもせずに呼び捨てにしちゃったんだけど...

友達に言われて気付いたの。入江くんが他の女の子のこと呼び捨てにしたら私だって嫌だから、もう呼び捨てはやめようって...でも、仲良くなって呼び捨てでいいって言ってくれてるのに鴨狩君って呼ぶのは悪い気がして...

本当にごめんなさい。ずっと謝りたかったの。」


「いいよ。鴨狩君でも何でも...友達だろ?」

「うん。ありがとう、鴨狩君。話せてよかった。」

「オレも。」

話しながら教室を出ると入江くんが立っていた。ビックリしてとっさに言葉が出ない。

「もういいよな?琴子、行くぞ。」

入江くんは鴨狩君にそう言うと、私の手首を掴んで引っ張った。ズンズン歩く入江くん...怒ってるのかな?

「あ、あの...違うの...」

「何が?何でそんなに焦ってるわけ?」

「そ、それは...」


「俺が嫉妬して、また冷たくするとでも?」

急に立ち止まった入江くんが私を覗き込むようにして言った。周りにはもう誰もいなかった。

「そんなこと...」

「時間ができたからお前の発表見に来てたんだ。どんな発表するのか、ちょっと興味あったし...

午前の部の最後だって言ってたろ?そのまま一緒に学食行けばいいやと思って、お前に見つからないように見てた。」

「発表見たの?」

「ああ。面白かった。お前の視点、子ども寄りって言うか、まんま子どもだな。意識せずにそうできるってスゲエよ。」

入江くんの口調はからかっているわけではなさそうだった。恐る恐る聞いた。

「ほめてる?」

「ああ。褒めてるつもりだけど?」

「ありがとう。」

私はうれしくなってお礼を言った。


「終わったから声を掛けようと思ったら、あいつがお前に...

バカだな。嫉妬なんてするわけないだろ。お前は俺だけが好きなのに...

結局、俺の所為だったんだな。お前があいつのこと呼び捨てにしたのって...」

「入江くんのせいじゃないよ...」

「琴子...無理かもしれないけど、あの人と一緒にいた俺は忘れて欲しい。

あの時も俺が一緒にいたかったのはお前だった。俺が好きなのもお前だけだから...」

「入江くん...」

熱い涙が込み上げる...入江くんが唇で涙の滴を掬ってくれた。


~To be continued~