Please Don't Stop The Rain 中編 | φ ~ぴろりおのブログ~

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イタズラなKiss&惡作劇之吻の二次小説を書いています。楽しんでいただけると、うれしいです♪ 

患者の容態が落ち着き、やっと家に帰れた。琴子にちゃんと話そう。俺が悪いのは分かっている。

家に帰るとオフクロが俺を待ち構えていた。いつもなら俺に飛びついてくる琴子の姿は見えない。当たり前だよな...

「何かあったの?琴子ちゃん、目が真っ赤だったわよ。疲れてるからってすぐに部屋に行っちゃったし...

またお兄ちゃんが苛めたんでしょ。少しは優しくしてあげないと愛想尽かされちゃうわよ。」

「別に大したことじゃないから。」

俺はオフクロにそう言うとすぐに階段を上がった。部屋のドアをゆっくりと開ける。

「琴子、いないのか?」

浴室と洗面所も覗くが琴子の姿はなかった。あそこだな...未来の子ども部屋の前に立つ。ドアをノックする。

「琴子、いるんだろ?話を聞いてくれ。」

返事はない。入るぞと声を掛けてドアのレバーに手をかける。最後まで下りないレバーハンドル...鍵がかかっていた。

「琴子、開けてくれないか。話をさせて欲しいんだ。」

しばらく待っても琴子からは何の反応もなかった。ドアに耳を寄せても中の様子を伺い知ることはできなかった。


どうすることもできず部屋に戻る。何をする気にもなれず洋服のままベッドに横になった。

こんなときでさえ癖になっているのか微妙に右半分を空けてしまう。いつもなら琴子が寝ている方に身体を向ける。

今夜は久しぶりに琴子を抱き締めて眠れると思ったのに...琴子はもう眠っただろうか...

きっと寝てないよな...せめてもう泣いてないといいけど...泣かせてる張本人の俺が言うことじゃないよな。

なぜ追いかけなかったのか。あの場で追いかけて琴子を捕まえればよかった。後悔ばかりが押し寄せる。

そもそもあんなことさえ言わなければ、琴子と一緒に昼食を取りいつも通りの笑顔を取り戻すことだってできたのに。

素直になれない自分が嫌になる。自分が悪いのは勿論だが西垣先生に恨み言の一つも言いたくなる。

それにあのナース...琴子を追いかけなかった俺に嬉しそうに話しかけてきたが、一睨みしたらそそくさと席を立った。

あんなヤツらに嵌められたようで腹が立つがそんなことはどうだっていい。いまは琴子のことしか考えられない。

ただでさえ不安になっていた琴子を傷つけた。涙を堪えていた琴子の顔が消えない。胸が締め付けられる。


琴子、どうしたらいいんだ...お前の顔が見たい...お前の声が聞きたい...おまえに触れたいよ。



それからも勤務シフトのすれ違いは続き、たまに家や病院で顔を合わせても、琴子はすぐに目を逸らし俺を避けた。

胸が痛まない訳ではないが顔色も悪く少し痩せた様子の琴子が心配でならない。家ではオフクロに心配をかけまいと

普通に食べているが他では碌に食事も取っていないのかもしれない。相変わらず子ども部屋での篭城も続いている。

俺は途方に暮れていた。こういう時に頼りになる桔梗もさすがに呆れたのか、あれから何も言ってこない。

今日は気になる患者もいない。当直明けだ。急患さえなければ少し早めに帰っても文句は言われないだろう。

琴子も日勤のはずだ。話し合うならゆっくり時間が取れる今日しかない。


俺の方が琴子より先に家に帰れた。琴子は申し送りが長引いたか、家に帰りたくなくて愚図愚図しているのだろう。

「お兄ちゃん、傘持ってなかったのね。電話してくれたら迎えに行ったのに。どこ行くの?帰ったばかりなのに。」

「琴子も多分傘持ってないから迎えに行ってくる。」

「素敵だわ~ はやく行ってらっしゃい。勿論傘は一本でしょうね。頑張るのよ。」

「ああ。当然だろ。行ってくる。」


電車が着く度に吐き出される人波に目を凝らす。いつも胸にあるその顔を捜す。

改札を抜ける人が途切れる。まだか...思わず溜息を吐いてしまう。

雨が小降りになってきた。このまま上がってしまいそうな空の色だ。雨が止んでしまったら...

せっかく見つけたきっかけを失ってしまう。琴子にまた近付くことができなくなる。俺は空を見あげた。

...俺の願いが届いたのか、雲は厚みを増し空が暗くなってきた。雨脚も強くなってきたようだ。

頼む...どうかこのまま...


雨はアスファルトに吸い込まれることなく行き場を求めて流れとなる。雨粒が傘を打つ音が俺を包む。

あの日と同じだ。金之助が琴子にプロポーズしたと知り、何時(いつ)帰るとも知れない琴子を待った。

琴子が他の誰かの者になってしまうかもしれない。そう思った瞬間、他のことは何も考えられなくなった。

いやだ..イヤだ..嫌だ..絶対に嫌だ。そんなこと許せない。そんなことはさせない...溢れ出した琴子への想い。

あの時よりも琴子への想いは遥かに強くなった。いまはただ一刻も早く、琴子の顔を見てこの胸に抱き締めたい。

電車が着いたようだ。改札を足早に抜けて行く人の列は切れ間なく続いている。タクシー乗り場に駆け出す人、ひと。

列が乱れ始めた...まだ琴子の姿はない...もう列とは呼べない程まばらな人...この電車でもなかったのか。

その時...俺の目は一点に吸い寄せられた。



雨が降りそうな日は必ずお母さんが傘を持ったかどうか聞いてくれる。今日は何も言われなかった。

天気予報でも雨が降るなんて一言も言ってなかった。降水確率は何パーセントだったんだろう。

確かロッカーに置き傘をしていたと思ったのに、淡いピンク色の折り畳み傘はどこにも見当たらなかった。

病院から駅まではそんなに強く降ってなかったし、真里奈と一つ傘でおしゃべりしながらだったからあっという間だった。

コンビニでビニール傘買わなきゃダメかな。電車に乗っていたときはこのまま上がるかなと思ったのに...

ついてない。また雨脚が強くなった。ただでさえ気が重いのに...この雨...家までの道のりがとてつもなく遠く感じる。

タクシーに乗ったらすぐに着いちゃうし...でも行列ができてるから...やっぱり歩いて帰ろう。


顔を上げると私の方に真っ直ぐ歩いてくる人影が目に入る。傘ではっきり顔は見えない。でも誰なのかすぐにわかった。

逃げたいのに突然のことに驚いて足が動かない...私のすぐ目の前に立つその人。

「...い、入江くん...」

「よお。」


~To be continued~