「入江くん、どうして。」
「傘持ってないんだろ。入れよ。」
琴子は一瞬ためらいを見せてから傘に入り俺の隣りに立った。
「濡れるだろ。もう少しこっちに寄れよ。」
「大丈夫。」
琴子は俺に触れないようにそれ以上は近付いて来ない。
微かな胸の痛みに気付かないフリをして傘を琴子に寄せる。
「ダメだよ。入江くんが濡れちゃう。」
そう言って琴子が傘を押し戻す。
「いいから。」
つい有無を言わさぬ口調で言うと、琴子は諦めたように俺との距離を縮めた。
...言いたいことも言わなければならないことも沢山あるのに、
キツイ口調で言ってしまったことで一言謝ることさえ難しくなった。何をどう話せば...
それきり俺も琴子も口を開くことなく、傘が雨粒を弾く音を聴きながら歩いていた。
「あの日みたいだね。」
琴子がポツリと呟いた。
「そうだな。」
「...入江くん、間違えちゃったね。」
「間違えた?何を?」
「私、いつまでたってもドジで、何年経っても..入江くんの奥さんだって..認めてもらえなくて...」
涙を堪えているのか途中から震え始めた声。
「そんなことない。他人なんて関係ないだろ。」
「...入江くんだって本当は...邪魔しちゃうし...鬱陶しくて堪らないんでしょう?迷惑かけてごめんなさい。」
「迷惑だなんて思ってない。」
「だって...言ってたじゃない..うっ...入江くんは間違ったんだよ..ひっく...あのまま私じゃなくて――」
琴子の肩を掴み抱き寄せる。傘を差したまま腕の中に閉じ込めるようにして抱き締めた。
「ごめん。あんなこと本気で言ったわけじゃないんだ。お前とギクシャクしてイライラしてるのを西垣先生に指摘されて、
図星だったからムカついて...お前がいなくても全然平気だってフリをした。
信じてないとかうまくやり過ごせとか...俺、全然わかってなかったよな。
その上、傷付いてるお前を守るどころかもっと傷付けて...最低だよな。
本当に悪かった...俺は間違ったなんて思ったこと一度もない。哀しいこと言うなよ。
あの日、俺は人生で最良の選択をしたって思ってる...お前じゃなきゃダメなんだ。」
「...入江くん...ほんと?」
涙をいっぱい溜めた瞳で俺を見上げる琴子。俺は答える代わりに琴子の唇にそっと口付けた。
唇を離して頬を染めている琴子の潤んだ瞳を覗き込む。
「オクサン、わかってもらえましたか?」
「たぶん...わかったかな。」
「多分だとぉ。コイツ。」
俺は肩を掴んでいた手で後ろから琴子の顎を持ち上げ、唇ごと食べ尽くすように深く激しく口付けた。
「わかっただろ?」
俺は唇を離すとそのままの至近距離で耳まで真っ赤になっている琴子に聞いた。
「...うん。わかった...入江くん、誰か来たら見られちゃうよ?」
「別に見られたっていいけど、傘が隠してくれるだろ。」
俺は笑ってそう言うと、もう一度琴子の唇に触れた。琴子の唇の柔らかさをゆっくりと確かめその甘さを味わった。
長い長い口付け。甘い口付けと久しぶりに感じる琴子の温もりに、痺れるような幸福感が全身を包む。
うっとりした表情を浮かべた琴子がはにかんだ笑みを零す。
「なに笑ってるんだよ。」
「...なんでもない。」
恥かしそうに目を逸らす琴子。怪しい...
「嘘つけ。またヘンなこと想像してるだろ。」
「ヘンなことじゃないもん。さっきあの日みたいって言ったでしょ。だからちょっと思い出して考えちゃっただけ。」
言い訳するみたいに口を尖らせて言う琴子が可愛い。
「あの日みたい...思い出して...わかったぞ。」
「うそっ?わかったの?」
大きな目を見開いて驚く琴子にからかうように告げる。
「お前、キスした後、何回目かなって思ったんだろ?」
「どうしてわかったの?」
「お前の考えることくらいお見通しだよ。何年一緒にいると思ってんだ。」
「へへっ...何回くらいだと思う?」
「そんなのわかる訳ないだろ。それより...早くもっと色んなところにキスしたいんだけど。」
琴子の耳元で甘く囁く。
「やだぁ、もぉ。」
湯気が出そうなほど真っ赤になって俯く琴子。
「ほんとに嫌なのか?そうか。残念だな。」
「えっ...そんな...別に...嫌じゃないけど...」
「ほら、行くぞっ。」
俺は琴子に向けてニヤリと笑うと琴子の手首を掴んだ。
~See You Next Time~
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皆さま、久々の短編いかがでしたか?
コメントはもちろん、ペタ返しができないことを承知でペタで応援してくださった皆さん、本当にありがとうございます。
久しぶりにお名前を拝見した方々...きっと毎日来てくださってたんですよね。すごくうれしかったです。
明日はいつも通りタイトル曲の紹介。
そして、このお話の続きを明後日、アメンバー限定記事でアップする予定でいます。
ラブラブを書くのは久しぶりなのでリハビリっていう一面もありますし、
大人なお話というよりも、限定記事が殆どないにもかかわらず、
アメンバーになってくださっている皆さんへ感謝を込めて書くお話という位置づけです。
これからもこういう形(感謝企画)で、たまには限定記事をUPできたらなと思っています。
アメンバーの皆さん、楽しみにしていて下さいね♪
アメンバー申請はいつでも受け付けていますので、読みたい方がいらっしゃいましたら申請お願いします。
なお、高校生以下の方と男性の申請は受け付けておりません。悪しからずご了承ください。