ジャック・ロンドン『白い牙』 | 現在と未来の狭間

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文芸と自転車、それに映画や家族のこと、ときどき人工透析のことを書きます。

電車の中で夢中で読んでいる。実はこの本を読むのは3度目である。大学生頃に1回、透析導入時に1回、そして今現在の3度目。

子供の頃、テレビのニッセイアニメスペシャルで見たのだが、その時の話と比べるとかなり違っている。原作は犬と狼のハーフが主人公だが、アニメでは子供が主人公だった。しかもキャラデザインが安彦良和という作りで、子供向けに分かりやすく構成されていた。部分的には戸川幸夫の『牙王物語』が混ざっていたようなストーリーだが、原作はかなりハード。

冒頭と後半部分でしか人間が登場しないので、大半でセリフ部分が無い。そのほとんどが文章表現なのだ。今読んでいるのは新翻訳の光文社文庫版なので、古い新潮文庫版に比べると言葉が新しく分かりやすいかもしれない。長い文章がずーっと続くのだが、これも読んでいくうちにのめり込んでいくので不思議だ。

ストーリーは主人公のホワイトファングが生まれる前から。冒頭は雪橇で旅をしている白人男性二人が吹雪の中、狼の群れに遭遇する。次第に拳銃の弾もなくなり狼たちに追い詰められていく。吹雪はますます荒々しくなり橇を引く犬たちが1匹、また1匹と狼たちの餌食となっていく。追い詰める狼の群れの中に、後にホワイトファングを生む雌犬がいた。

その後は子狼のホワイトファングが荒野の中で成長して、人間に飼われ、人を神として感じながら生きて行くのだが、とにかく飼い主との巡り合わせが悪い。最初はインディアンの一家の橇犬になるのだが、そこでの橇ひきは過酷。殴る蹴るで忠誠心を植え付ける。橇のトップを走ると後ろの犬たちが嫉妬で噛み付いてきて苛め抜かれる。でもその苛めすら、橇を引くための駆動力なのだ。それで、飼い主のグレイビーバーは酒に溺れていき、酒欲しさにホワイトファングを手放してしまう(このあたりはテレビアニメではかなり改変されている)。

2人目の飼い主はスミス・ビューティーという名前とは大きく違って容姿も心も醜悪な白人で、この男のもと殴る蹴るの暴行を受け、激しい憎しみを孕んで闘犬に育てられてしまう。日々他の犬と格闘させられる毎日で、次第に人に対する忠義心をなくし死闘を繰り広げていく描写は壮絶である。

3人目の飼い主にやっと情愛を持って育てられるようになるのだが、すでに人に懐くということを捨て去ったホワイトファングはどうやって愛を取り戻していくかというお話。

いや、本当に愛を取り戻す物語だ。飼い主を探し求めて旅をするとかの動物童話のようなヤワな話ではない。これをベースに人間に置き換えて話を作り直したら、結構ハードな物語になる。

本来であれば言葉を持たない狼の視点で文章を書くジャック・ロンドンもすごい作家だ。ホワイトファングが子供から成長していくあたりは狼視点で物語が描かれていて、読んでいて想像力を掻き立てられる。読ませる天才だと思う。でもロンドンも四十歳くらいで亡くなっていて、短命だし晩年はかなり辛酸をなめたという。動物モノばかり書いているのかというと、ドキュメンタリーを手がけたり、SFに近いような不思議な話も書いている。翻訳されたものは少ないのだけれど。

古典でもこの作品は確かに面白いと思う。

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